私が玄関に出た。夕食のすぐ後。マリアに挨拶をしたが、彼女は、ちょっと思わせぶりに微笑んでウインクをして私を見ているだけだった。そして、彼女は、ベンが座って待っているリビングに入っていった。そこで、彼女は、立ったまま彼を見下ろしていた。どことなく、何か期待している表情をしている。だが、笑みはなかった。ベンが顔を上げ、やあ、マリアと言ったけど、マリアは、まだ、突っ立ったまま彼を見下ろしていた。ようやく、ベンが立ち上がり、彼女の前に立った。そのとき、一瞬、マリアの口元に笑みが浮かんだような気がした。
「両手を頭の上に」
マリアがようやく口を開いた。小さな声だが、力がこもっていた。
「はい、女王様」
彼は命令に従った。体を硬直させ、気をつけの号令を受けた兵士のように直立した。マリアは、彼を検査でもしているように、彼の周りを歩きまわった。彼は、目すら動かさず、じっと直立していた。マリアは私に目配せし、微笑んだ。私と対面しつつも、彼に問いかけた。
「命令に従う心積もりはできてるか?」
「はい、女王様」
「私たちは映画に行く。ついてきなさい。2人とも」
マリアを止めるのは不可能のようだった。私とベンは、彼女に従って、外に出た。
私たちは彼女の車に連れて行かれた。助手席に男の人が座っていた。・・・前とは違う男の人だったが、この人も若くて、とてもハンサムだった。マリアは私たちに後部座席に座るように指示し、車を走らせた。近くのシネコンへと行く。誰も一言も話さなかった。
その映画は公開されてからかなり経っており、劇場にはほとんど客がいなかった。ベンなら、その映画は、ベンなら見たがらないと思われる映画だったが、私は、見ようかと考えたことはあった。マリアは、前の方に半分ほど行った、右の側席に行くように指示した。がら空きなので、中央部であれ、どこにでも好きなところに座れたのだけど、どういうわけか、壁に沿った側席を指示した。私が通路側、ベンたち男2人は壁側に座り、マリアが私と男たちの間に座った。
映画が始まると、マリアは男たちに何か言った。ちらりとそちらに目を向けて見た。すると、ベンたち2人は、椅子から降りて、床に座っている。しかも服を脱ぎ始めてもいる。そして、シックス・ナインの形で床に横になり、お互いに吸い始めたのだった。
マリアに、映画を見るようにと注意された。私は2人の方を見つめていたに違いない。彼らは床に横になったまま、黙々と、相手を吸っていた。やがて、ようやく、私は映画にのめりこんでいた。悲しい映画で、私は泣き出していた。マリアも同じだった。マリアは、また何か2人に話していた。映画が終わるまでには、2人とも元通り席に座っていた。映画館を出た後、私たちは建物の裏手の陰になっているところへ歩いた。そして、そこでもマリアは、2人に裸になるように命じ、さらに再びシックスナインをさせたのだった。アスファルトの上でである。家に帰った後、マリアは私に言った。
「しばらくベンとはセックスしないように。ベンは、誰がボスなのかはっきり知る必要があるから」