デニスの生活は、学校と仕事、そしてたまにあるパーティのリズムに落ち着いた。日を重ねるごとに、週を重ねるごとに、デニスは、この新しい生活に馴染んでいったし、デニスとアンバーの間も密接になっていき、互いに一番の親友と言える間柄になっていた。デニスは、間もなく、ホステス係から給仕係へと昇格し、それに伴って、チップも大幅に増えた。
彼は、冬休みに入る直前、ある男性と初めて一緒に寝た。最初はちょっと痛かったけれど、すぐにその痛みは快感へと変わり、最後には、デニスは情熱的に反応していた。後から思い出そうとしても、デニスはその男の名前を思い出すことすらできなかったが、その男の姿かたちや、彼のペニスの姿、そしてそれで突きまくられた時の快感はしっかりと覚えていた。その一夜の出来事が、デニスにとって転換点となった。その後、彼は、以前のシャイで控えめで、いつも恥ずかしそうにしている存在から脱却し、自分がボイであることを完全に受け入れ、肯定的に生きるようになった。
それから間もなく、デニスは本格的にデートを始めるようになった。毎週、週末、違った男性とデートに出かけ、この世界が提供してるモノをすべて採集するようになった。相手と寝る時もあれば、そうしない時もあった。アンバーはと言うと、そんな彼をいつも支援し、デニスとダブルデートすることも数多くあった。ある時など(酔った状態で受けてしまったと、後でふたりとも後悔したことだが)男性ふたりと4人プレーをしたこともあった。その男性ふたりは、典型的な大学生で、ボイと女性を相手にするという物珍しさから誘ったらしく、ただ快感をむさぼるだけだった。
アンバーが、デニスに対する気持ちが友情を超えたものであると告白したのは、大学を卒業した後、デニスが修士課程に進学し、アンバーがエンジニアになった時だった。
「あなたを愛しているの」 とその夜、ディナーをとりながらアンバーが言った。「ずっと前から」
デニスは何と言ってよいか分からなかった。彼自身、何度かそういう目でアンバーのことを見たことは確かにあった。でも、それはいつも一時的なものだった。彼は、そんなことを考えるのは、前の男性としての生活の名残にすぎないのだと無視したのだった。だが、ひょっとすると、そのような考えは何か別のものなのかもしれないのでは? 自分も、アンバーに同じ感情を持っているのでは? これまでもずっと、心の片隅で、アンバーの気持ちは単なる友情を超えたものであることは、ある意味、知っていたのだと思う。そして、彼女がそれを告白するまでは、そのことを無視することができていた。
「何と……何と言っていいか分からないよ、アンバー。……僕も君を愛している。でも、その気持ちが何であるか分からないんだ。これまではただの親友と思っていたけど、でも……」
「言うべきじゃなかったわね。……ごめんなさい。ただ、どうしても……」
「最後まで言わせて」 とデニスが遮った。「僕も君に気持ちがあるんだ。だから、思うに……その気持ちを、ふたりで探究してみるべきだと思うんだ」
アンバーは何も言わず立ち上がり、身体を傾け、テーブル越しに顔を寄せ、デニスの唇にキスをした。デニスは、彼女の唇が触れた途端、悟った。そこには愛情があった。彼が男性に対して感じる愛情とは、多分、異なる愛情。だが、同じくらい強い愛情。
長い年月を経て、デニスはようやく見つけたのだ。ずっと前から欲していたのに、なかなか捉えられなかったものを。本当に心から自分を愛してくれる人を見つけたのである。自分の姿かたちが良いから愛してくれてるのでもなく、快楽を与えてくれるからでもないし、一緒に連れて歩くと自慢できるからでもない。それとは異なる理由で愛してくれる人。アンバーは、まさにデニスがデニスであることでデニスを愛してくれている。
その後、ふたりは永遠に幸せな人生を送っただろうか? そうはならないかもしれない。デニスは、生い立ちでひどい精神的ダメージを受けてきたボイであり、アンバーは、おそらく、デニスが彼女を想っているよりも、デニスのことを愛しすぎている。でも、この瞬間、ふたりは愛しあっていた。そして、愛があるところには、希望もあるものである。それ以上、何を望めようか?
おわり