「集い」 Gathering by deirdre, 9/24/94
「そうだな、それが良いな」
僕の妻のジーンが、ペグを家に連れてきたら、いろいろ良いのではないかと提案した。もちろん僕も賛成だった。ペグは僕の妹で、僕や僕の姉のサンドラに会いに西海岸から飛行機でこっちに来ることになっている。ファミリーの再会のための集いだ。ペグには2年ほど会っておらず、やっと、こっちに来てみるように説得したところだ。両親が亡くなった今となっては、兄弟姉妹が疎遠にならぬよう、会うように努力すべきだと。
僕たちがサンドラを連れてきて、まだ、たった2時間なのだが、すでに僕たちはめちゃくちゃ状態になっていた。確かに、僕は姉も妹も両方愛している。でも、サンドラには、耐えきれなくなる時もあるのだ。サンドラの攻撃的な物言いについて、僕の場合は、大半は無視する方法は知ってるのだが、妻のジーンは極度にピリピリしてしまう。サンドラを交えて夕べを過ごすと、きまっていつも、僕たちが寝室に入る頃には、妻はいつ爆発してもおかしくない状態になってしまう。サンドラは、近いところに住んでいるので、僕たちは、年に2回か3回は会う。そして、これは言いたくないのだが、僕は、ペグがそばに住んでいてくれたらなあと願うことが少なくないのである。
ペグの顔が分からなかった。少なくとも、すぐには分からなかった。すぐに分かると思っていたのに。ヘアスタイルはショートになっていた。バズ(
参考)とまでは言えないまでも、あれなら手入れは一瞬だなと確信できるほどショートになっていた。最後に見た時は、長い、絹のような髪を肩まで垂らしていたのに。服は、ジーンズとかなりタイトな革のトップ。どうして、あんなにピチピチのを着てるんだろう? 体形がすっかり分かるほどピチピチ・タイトだった。どちらかと言うと、洗濯板の胸なのだが、それでも、あの服装をして視線を引きつけていた。
ペグを出迎え、ハグをした。ペグは確かににっこりしていたが、かなり控えめの態度をとっているように思えた。僕は、ペグのことだから、ぴょんぴょん跳ねてはしゃぎまわると思っていたのに。ペグはまだ20歳で、そういう子供じみた反応をしても許される年頃だ。だがともあれ、ペグに会い、話しができて嬉しかったし、ジーンも彼女に会えて嬉しく感じていたと思う。
家に帰り、僕らはペグにワイングラスを押しつけ、サンドラが帰ってくるまで、楽しくおしゃべりをした。サンドラは高校時代の旧友に会いに行っていたのだが、彼女が帰ってきて最初の5分間は楽しかったと言える。でも、その後、サンドラの威張りくさりが始まり、僕の神経を逆なでし始める。まずはペグのヘアスタイルと服についてひとくさり。次にペグが西海岸に行ったことについて文句。その合間に、ジーンには、とりわけ夕食の出し方でどんなのが一番良いかについての説教。僕は心の中で溜息をついた。
僕はペグにちょっと驚いた。僕は、ペグがサンドラの言葉に反旗を翻すはずと踏んでいたから。ペグとサンドラは、以前は、しょっちゅういがみ合っていたのだ。なのに、いまのペグは軽く受け流しているように見えた。僕が見た限り、サンドラは、ペグを怒らせるために必死に一人相撲をしているだけのようだった。サンドラは、ペグの私生活について質問を繰り返し、ことあるごとに、ペグの自立感覚に反するような意見を挟んでいた。なのだが、ペグはただサンドラの言葉を聞き流すだけ。もっとも、一度だけ、ペグがサンドラから顔をそむけたときに示した表情を見て、僕は身体が凍りつくのを感じた。あの表情は何かを決心したような表情に見えたのだが、ペグがあんな顔をするのを見て、僕は、驚いたのである。
ペグとサンドラ、それぞれに2階に寝室を割り当てたものの、ふたりを2階に送ることに、僕は不安を感じていたと言っていい。僕とジーンが寝室に引っ込んだ後、ふたりは2階に上がって行った。階段を上がる間ずっと、サンドラがペグをなじる声が聞こえ続けたし、その後も彼女の声が聞こえていた。ジーンとベッドに入った後も、階上から会話の声が聞こえてくる。会話がやんでは、また始まるというのが何度も繰り返されていた。大声で叫びあうとかそういった声ではないが、声のトーンからサンドラが文句を言ってるのは分かる。
階上からの声は、かなり長く続いていたので、僕もとうとう、うとうとし始めた。だが、突然、大きな悲鳴で目が覚めたのである。僕はビックリして起き上がった。ジーンも僕の隣、起き上がっていた。
「何なの?」 と心配そうにジーンが言う。僕はランプをつけ、ふたりベッドから降りて、寝室の外に出た。家の中、何も音がない。僕たちは階段を駆け上がった。サンドラの寝室のドアが開いていたが、彼女は中にはいなかった。ペグの寝室のドアは閉まっていた。
僕はノックした。
「ペグ!」
「何?」 とドアの向こうからペグの声。
「さっきの何? 何が起きたの?」
「何でもないわ!」
「ペグ! サンドラはどこ?」
ペグはドアを少しだけ開けた。
「サンドラなら、ここにいるわ」
「誰の悲鳴? サンドラの?」
「何か悪い夢を見たみたいね。大丈夫よ」
「本当?」
「ええ! だからお部屋に戻って!」
ペグの振舞いは変だった。ドアをちょっとだけ開いて、それ以上、開こうとしなかった。でも僕もジーンもふたりをそのままに階下に降り、寝室に戻った。僕もジーンも、眠るまでちょっと時間がかかった。それほどのショックだった。
翌朝、僕たちが起きると、何と、朝食が始まっていたのだった。キッチンに入ると、サンドラがベーコンエッグを作っていて、ペグが食べていた。だが、驚いたのはふたりの服装だった。サンドラは丈の短いナイト・シャツのようなものを着ていた。腰のちょっと上までスリットが入っている。これまでも寝間着姿のサンドラは見ていたが、いつも、丈が長くて、だぶだぶのナイトガウンを着ていた。ペグの方はきつめのTシャツとビキニ・パンティだけの格好だった! たとえ僕の姉妹だとしても、ふたりともちょっとはしたない格好と言える。ジーンも驚いたらしい。僕とジーンはローブを羽織っていた。
ペグが「卵でも食べる?」と僕たち声をかけた。サンドラは何も言わず、ただ調理してるだけ。サンドラのための場所はテーブルには何も用意されていなかったが、ペグは、サンドラに僕たちの食卓を準備するよう言い、サンドラはすぐにその求めに従った。「卵はどんなふうに?」 とペグが訊いた。「いいのよ、私がするから」とジーンが言っても、ペグは却下するので、結局、僕たちは好みの焼き方を答えた。サンドラは何も言わず、ただ、僕たちの要望に従って料理を始めるだけだった。
ジーンと一緒にテーブルにつき、僕はペグを見た。ペグは僕たちを見て、にっこりとほほ笑んだ。非常に自己満足した笑みで、むしろ僕は驚いてしまった。ペグは確かに変わった!
朝食の後、ペグは着替えをするために部屋に戻った。サンドラはキッチンに残り、食器洗いをしていた。
こんなふたりを僕は見たことがなかった。ジーンと僕も寝室に戻り、着替えを済ませて戻った。すでにペグがいた。ふくらはぎの真ん中あたりまでのジーンズ生地のロングスカートを履いていた。多分、その下にはレオタードを着てるだろう。そしてブーツを履いていた。その姿、僕には70年代後半のファッションのように見えた。
サンドラがキッチンから出てきたが、まだ、あのナイトシャツの格好のままだった。サンドラも着替えに寝室へと上がり、ペグも後に続いて2階に上がって行った。少しした後、ふたりが降りてきた。サンドラはドレス姿になっていた。思い出されるいつものサンドラの服装と比べると、それよりちょっとセクシーな感じがした。どういうわけか、靴だけは覚えている。革製で、スリッパのように僕には見えた。
「ちょっと外に行ってくるわね」とペグが言った。ふたりはサンドラの車に乗って出かけた。
「いったいふたりに何が起きたの?」 とジーンが言った。
「知らないよ」 本当に訳が分からなかったのは事実だった。
その日の夕方、サンドラは、夕食を自分で作ると言い張った。ペグは、サンドラにさせてあげてとジーンを説得した。その日一日でサンドラが何か言ったのは、その時だけだったと記憶している。これをどう理解してよいか、僕には分からなかった。
僕たちは、その夜は映画を観に行く計画を立てていた。だが、ペグは、サンドラと一緒にいるから、ふたりだけで観に行ったらいいんじゃ、と言う。その映画はサンドラもペグももう観てしまってると言うのだ。だが、それはおかしな話だった。僕とジーンは、ペグとサンドラを交えて4人で楽しもうということで、その映画を選んだのだから。ならば、別の映画を選ぼうと言うと、ペグもようやく同意してくれた。どの映画を見るか話しあっていた時、ペグは、地元のアート系の映画館でしている映画はどうかと言った。それは外国映画で、主として、過激なヌードが出てくることで有名な映画であり、それをペグが選んだことで僕はちょっと驚いていた。ジーンが嫌がるんじゃないかなとも思った。ジーンは前からヌードが出てくる映画を拒否していたから。でも、僕たちは観に出かけた。ジーンは何も言わなかった。
映画から戻り、僕たちは眠ることにした。今回は、ふたりが階段を上がる時は、まったく静かだった。僕は驚きっぱなしだったが、それでも気持ちが落ち着き、やがて眠りに落ちた。
真っ暗な中、誰かに優しく揺さぶられていた。
「デイブ!」 囁き声が聞こえた。
ベッド脇のライトがつき、一瞬、目が見えなくなった。その人はペグだった。ベッド脇に立っている。「デイブ! 起きて!」
「何なんだ?」
「いいから、起きて!」
時計を見た。12:15AMとあった。ジーンの方に目をやった。
ジーンがいない!
「ジーンはどこ?」
「彼女なら大丈夫。起きて、着替えて!」 ふたりともひそひそ声で話していた。
「何が起きてるんだ?」
「気にしないで。見せてあげるから」
僕は下着しか着てなかったので、服を着た。僕が着替える様子をペグがそばにいて見てるのがちょっと変な感じがした。ペグは僕の妹なのだから。
ペグと廊下に出た。「もう話してくれ。何が起きてるんだ?」 と僕はまた訊いた。
「来て!」 とペグは言い、階段を上りはじめた。音を立てないように静かに。電気は消えていた。二階の廊下に来ると、サンドラの部屋の前の照明はついているのが見えた。ドアはほとんど閉まっているが、完全に閉まっているわけではなかった。
「静かにね!」とペグは囁き、ゆっくりと少しだけドアを開けた。「ね、見てみて!」
僕に、ドアの隙間から覗くよう、手招きしてる。僕が顔を覗かせることができる程度にドアを開けて。僕はドアの隙間に顔を突き出し、中を見た。
そこにはジーンとサンドラがいた! サンドラは例のナイト・シャツの姿で、ベッドの端に座っている。一方のジーンは全裸だった。サンドラの脚の間にひざまずいて、顔をサンドラの股間に押し付けているではないか!
僕は、その光景に唖然とした。サンドラはジーンの髪の毛を鷲づかみにしている。ジーンは両手を後ろ手に縛られていた。
僕は顔を引っ込めた。「いったい!?」 囁き声だが、驚きの声を上げた。
「来て!」 とペグは言い、僕を再び階下へと連れ戻した。
「何が起きてるんだ?」 改めてペグに訊いた。
「ジーンはね、ずっと前から、女の人とするのってどうなのか興味を持っていたのよ。サンドラとなら完璧にいくわ。だって、ジーンって服従するのを好む傾向があるから」
僕はペグの顔を見つめた。ペグが言ったことは、僕にとっては、最も考える可能性がないことだった。ましてやジーンが? 僕のジーンが? 気が狂ってる!
「だって、ちゃんと見たでしょ?」 ペグは、あたかも僕の心を読んだかのように、そう答えた。
「さあ、行こう!」
ペグはそう言って僕の腕を引っぱった。僕は茫然としてて、ただ引っぱられるがままになっていた。ペグは家の外、僕の車に向かっていた。そして、僕は車に乗せられていた。ペグが運転している。