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デビッド・ジョーンズとベル博士の追跡 (1) 

「デビッド・ジョーンズとベル博士の追跡」 David Jones and the Pursuit of Dr. Bell by Nikki J

デビッド・ジョーンズは危険な男である。大柄な男ではない(身長は160センチ足らず、体重も65キロ)。だが、その体格は彼に似合っていた。彼はハンサムでもない。ごく平均的な風貌。もっと言えば、彼の容姿の何もかもが「普通」という言葉を叫んでいた。一見するとコンピュータ・プログラマや会計士のように見える。だが、それはすべて計算づくである。実際の彼は、そういう職業から、考えられる限り最も遠い存在の人間である。

彼は通りを歩いていた。標的の獲物から一定の距離を保って後をつけていた。デビッドは目立たないスーツを着ており、いつでも容易く通りを歩く人々の中に溶け込むことができる。だが、もし彼を詳しく観察する人がいて、彼のことをよく見たら、確かに分かることだろう。彼の目が6メートル先を歩く男をじっと見据え、決して視線を離していないことを。そして、その彼の目も記憶に残ることだろう。氷のように冷たい青い瞳。見知らぬ人が、後からデビッド・ジョーンズについて思い出せと言われたら、その人は、この彼の瞳のことだけを述べるに違いない。

デビッドが尾行していた男は、濃い色の髪をポニーテールにした大柄の男だった。その男が東ヨーロッパ人であることをデビッドは知っている。それに彼が武器売買の仲介のためにこの街に来ていることも知っている。デビッドの仕事は、その武器売買を阻止することだった。

すでにお分かりの通り、デビッドは、実行する必要があるが、誰にも知られてはならない種類の仕事を行う秘密の政府機関のメンバーである。彼は、ほとんど知られていない脅威から国を守る陰のような存在と言える。めったに人に気づかれない陰。

ジョーンズは大柄の東ヨーロッパ人をさらに2ブロックほど尾行し、男が小さなグローサリー・ストアに入るのを見た。彼は通りの物陰に溶けこむように身を潜め、腕時計を口元に寄せ、ボタンを押した。

「標的が第9通りのグローサリー・ストアに入った。救援を待つ」

彼は典型的なエージェントではない。少なくとも映画に描かれるようなタイプではない。彼は情報で仕事をする。確かに、彼は、格闘になったときにどう身体を動かしたらよいかを知っている。武器や格闘技の技術について何年も訓練を受けてきた。だが、仮に身体的暴力を行使する必要に直面したら、何か恐ろしいほど間違った結果が生じてしまうかもしれない。だから、彼は格闘はしない。見守るだけである。彼は情報を集め、その情報を、身分を隠す必要のない他の誰かに報告するのである。

ジョーンズが見守る中、SWATのバンが現れた。中から黒い防護服を着た男たちが出てくるのを見た。各自、自動小銃を持っている。ドアを破り、中に入っていくのを見守る。そしていくつもの発砲音を聞いた。そして、あの東ヨーロッパ人が手錠をかけられて、建物の中から引きずり出されるのを見た。その30分後、救急車が来て、3体の死体が担架に乗せられて出てくるのを見た。

デビッド・ジョーンズは危険な男である。彼は通りの物陰に溶け込むように身を隠し、そのすぐ後、反対側から姿を現した。そして、通りの流れに融合し消えていく。誰にも気づかれず、誰にも見られずに。

*

デビッドは、お気に入りの革製椅子に身を沈めた。家に戻るのは久しぶりだった。両足をオットマンに乗せ、手に持つグラスを優しく動かし、スコッチウィスキーをかき混ぜた(彼はオンザロックに決めている)。彼は働き虫である。デビッドの上司たちは、彼に休みを取るよう強く求めていたが、彼にはその気持ちはない。彼はこの業界でほぼ4年、通しで働いてきた。上司たちは、彼が短くてもよいからすぐにでも一休みしないと、プレッシャーに押しつぶされてしまわぬかと思っていた。

だが、彼らがデビッド・ジョーンズのことを本当には知っていないのは明らかである。とはいえ、そもそも、誰が本当に自分のことを知っているだろうとデビッドは思った。デビッド・ジョーンズと言う名前すら彼の本名ではない。この名前は、最初のミッションを完了したすぐ後に組織から与えられた名前である。

彼はスコッチをひとくち啜り、グラスを横のテーブルに置いた。3ヶ月も休暇をもらっても、いったい何をすればいいんだ? 南の島に遊びに行くような趣味はない(彼の白肌は日焼けに弱かった)。それに、趣味らしい趣味もなかった。会っておしゃべりするような、旧友もいない。彼は仕事だけであり、他には何もなかったのである。

他の人間なら、この孤独を嘆くかもしれないが、それはデビッドの流儀ではなかった。彼は、自分の個人的生活の状態は必要な犠牲であると受け入れていた。彼はこの時間を思考と計画に当てた。デビッドには自分の欲するミッションを追求する自由があった。と言うわけで、彼は次にどの犯罪組織を標的にするか考えることにしたのだった。

その思考に深く嵌っていたとき、彼の携帯電話が鳴った。呼び出し音が2回なる前に、彼は電話に出た。

「ジョーンズです」

「事件が起きた。君には……」

「行先は言わなくてもよい。10分で出向こう」

ジョーンズは高圧的に答えた。

*

9分後、デビッドは、見るからに廃墟の大きな倉庫の外に立っていた。横には故障中の公衆電話があった。彼は、その電話に一連の数字をプッシュし、一歩、引きさがった。すると倉庫の壁に大きな穴が開き、デビッド・ジョーンズはその中に入った。

この廃墟の倉庫は見せかけである。中にはハイテクを駆使した施設があり、そこから国の最高機密のミッションが行われている。デビッドはここに入ったことがあるので、多数のコンピュータや巨大なスクリーン群、そして監視ステーションを見ても驚かなかった。彼は部屋の中をすたすたと進んだ。

デビッドは、どのような状況下でも、ほんのわずかな特徴にすら注意できるよう訓練されていた。だが、そのような訓練を受けていないお調子者ですら、問題が何であれ、すべてのスクリーンに映っているあご髭を生やした禿げの黒人が原因だということは理解できたであろう。

やがてデビッドは長々とした部屋を横切り、あるオフィスの前に来ていた。ノックをし、待つ。2秒ほどした後、ドアが開いた。

「やあ、ジョーンズ。掛けたまえ」

中に入ると、馴染みのある声が彼を出迎えた。部屋の中を見ると、部屋には3人の人がいた。ひとりは、オーウェンズ氏。彼の直接の上司である。他の2人は知らなかった。ひとりは20代後半か30代前半と思われる女性。もうひとりは40代の男性だった。

女性は、ジョーンズも認めざるを得なかったが、ある意味、古典的美女の範疇から言えば、極めて魅力的な人だった。ウェーブのかかった長いブロンド髪、豊かな胸、そして、少なくとも見えている部分から判断して、かなり引き締まった身体。その女性は椅子に座っていたので正確な判断は難しいが、おそらく170センチ弱ほどの身長だろうと推定できる。

他方、男性の方は衰えてしまった元スポーツマンといった身体をしていた。白髪まじりの髪をしており、頭頂部には禿げがはっきりと見えていた。肌は青白く、大半を屋内で過ごしてきたことが分かる。


[2015/09/16] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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