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デビッド・ジョーンズとベル博士の追跡 (5) 


マラとデビッドはしばらく沈黙のまま座っていた。その後、いたたまれなくなったデビッドが口を開いた。

「服を着てもいいんだよ。分かってると思うが」

マラは肩をすくめた。「あたしはどっちでも構わないけど。でも、あなたが居心地悪いと感じるんだったら……」 と彼女はすぐに服を着た。

「それでと……この先、どんなことを予想すべきか?……」 とジョーンズは切り出した。

「あなたの人生も、世界に対する見方も変わること」 とマラは答えた。「変化は身体的なものだけではないわ。不思議だけど。すべてがすごく連動してるの」

「どういうこと?」

「そうねえ……。変化の前は、あたしは女が好きだった。完全に異性愛指向だった。なのに、変化するにつれて、男の方が魅力的に見えてくるのよ。そして女の方はと言うと……まあ、もう今はあんなふうには気持ちが揺れたりしないと言っておきましょうね。それから、あの感覚! そのベル博士が何かしたかどうか分からないけど、でも、アナルセックスが……。変化の前に感じたどんなことよりも、はるかにずっと気持ちいいのよ。この2年ほどで、快感はかなり収まってきてはいるわ。でも、それまでしばらくの間は、あたし、文字通りの淫乱、色情狂だったのよ。でも今は、男と一緒になるのが自然だと感じてる。たぶん、男に惹かれるという指向を与えて、その後、その指向をプラスに強化したという仕組みじゃないかと思ってるけど」

「このことについてずいぶん考えたようだね」 とジョーンズが言った。

「ええ。さっき言ったように、あたしが男だった時には、女が好きだったから。そして今は、そういう状態とは真逆になっている。そういうことについて考えるのも当然じゃない? そうでしょ? ま、たくさんいろんなことが変わると予想することね、ジョーンズ捜査官」

*

デビッドは納得していた。脅威は現実だった。車の中、座席に座りながら、彼はマラが言ったことを考えていた。理屈が通る。もし、ベル博士が人の指向を変えることができたら、そして、その指向を快感を使って強化したなら、身体の変化を、彼が対象とした者にとって、より受け入れやすいものにすることになるだろう。そうすることで、対象者は、よりコントロールしやすくなる。

デビッドは頭を後ろに倒し、深い溜息を吐いた。そして、差し迫る変化について考えた。自分もマラやレアに似た存在になっていくのだろうか? ふたりとも豊胸手術を受けていた。ということは、乳房ができることは、ベル博士の計画には含まれていないことになる。デビッドは助手席に置いた茶色のファイルを取って、開いた。中にはベル博士の文書が入っていた。彼はそれを読みなおし、自分がどういう姿になるか、どんな存在になるかを想像しようとした。

現時点では、世界中で、白人男性がまったく新しく、高音の声を発し始めているところだと分かる。その声は、そもそもの声質に応じて、声の高さだけが変わるはずだ。低音だった男性は、女性的なハスキーボイスの持ち主になる。自分の場合は、元々、高音の男性の声だった。今後、おそらく高音の女性の声になっていくのだろう。彼は再び溜息をつき、ファイルのページをめくった。

手がかりと言えるものが、もうひとつある。マイケル・アダムズだ。西海岸カリフォルニアに住む、元ビジネスマン。

ジョーンズはエージェンシーに電話を入れ、ニューヨークからロスへのフライトを予約させた。フライトは翌日だった。そこでジョーンズは空港のホテルにチェックインした。

翌朝、ジョーンズはシャワーから出て、タオルで身体を拭いた時、全身の体毛がなくなっていることに気がついた。顔に手をやり、肌がつるつるであることを知る。第二段階、完了か。彼はその情報を頭の片隅に追いやった。今は目の前の任務に集中しなければならない。

*

翌日の夜、デビッドはロスに着いた。飛行機の中で寝ようとしたが、寝付けなかった。彼は眠る代わりに、追ってる事件のことを考えた。時系列に沿って出来事を考える。

次第にはっきりしてきてることは、ジョージ・ヤングが、元イジメをしていた者に対する復讐のために当初の化合物を開発したということ。今は亡き若い科学者に多額の金が支払われた。それは、ベル博士がその化合物を購入したことを確証していると言える。だが、ベル博士は資金が乏しくなっていたのだろう。そこで、彼はジャマル・ピアスに仕事を持ちかけた。そしてジャマルはライバルだった男を女性化した。ジョーンズは、マラの女性化はふたつの目的を持っていたのではないかと睨んだ。化合物の実験と、資金獲得のふたつ。

だが、このマイケル・アダムズという男は予想がつかなかった。彼のどこを取ってもオマール・ベルとは結び付きそうに思えない。アダムズは黒人だが、戦闘的な差別反対主義者ではない。共和党の党員の登録さえしている。彼は2年ほど前、巧妙な投資を行い、かなりの利益をあげ、それ以後は、静かに生活を送っている。にもかかわらず、彼は、ベル博士の組織に6百万ドル以上の寄付をした(その組織の目的は、自閉症の治療の研究と考えられている)。

いや違う。マイケル・アダムズについて、どこか間違っているはずだ。

ロスに着いたのは夜だったので、ジョーンズは少し眠ることにし、ホテルにチェックインした。部屋に入り、ベッドに入るとすぐに、彼は眠りに落ちた。

翌朝、目が覚め、着替えを始めた。ジョーンズは鋭い感覚を持っている。すぐに、ズボンの腰回りが緩くなっていることと、歩くと裾が床を擦っていることに気がついた。時間がどんどん減ってきている。間もなく、変化が本格的にスタートするだろう。

*


[2015/09/21] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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