ふたりは、「ユニバース」という名のクラブの前にいた。クラブの看板のところに「100%アメリカ産牛肉」という文字があった。だが、それがどういう意味かを考える間もなく、デビッドはキムにクラブの中へと引っぱりこまれた。店内に入る。デビッドは、目にした光景に言葉を失った。
ステージの上、筋肉隆々の逞しい男たちがいて、ストリップをしている。
大半は黒人男だが、ラテン系の男もふたりほどいたし、東洋系の男もひとりいた。服を脱ぐ途中の段階の男たちがいて、まだ、それぞれのコスチュームを身につけていたが、Gストリングのビキニだけになっている男たちもいて、かろうじて男根が隠せている状態だった。そして、当然ながら、素っ裸になっている男たちもいた。踊るのに合わせて、長大なペニスがぶるんぶるん揺れていた。
一方、客の方に目を向けると、女性とボイの両方がいた。年齢層も容姿も様々だった。すべてのボイがデビッドほど運が良いわけではなかった。太ったボイもいれば、醜いボイもいたし、可愛いボイもいた。若いボイも、中年のボイも、年老いたボイも、皆、熱心な客になっていて、ステージ上の筋肉の塊のような男たちにドル札を投げたり、Gストリングズにお札をねじ込んだりしていた。
デビッドも、男性ストリップ・クラブが最近はやっているのは知っていた。だが、ただの統計数字としてのみ知っていたにすぎない。こんな赤裸々な場所になっているとは思ってもみなかった。現在でも、女性ストリップのクラブの方が数は勝っているが、男性ストリップのクラブとの数の差は徐々に狭まってきていた。
それも当然と言えた。今や、潜在的な客数は男性ストリップの方がはるかに多いのである。それに応じて市場が変化するのも当然であった。
「ここで何をするんだ?」 とステージ前の席に腰を降ろしながら、デビッドはキムに訊いた。
「あなたは、この状態に慣れる必要があるの。ミッションの間、あなたはクラブ好きのボイとして潜入するんでしょう? だったら、本物の男たちとかなり親密に接することになるのよ。今のあなたみたいに、慎まし深い態度ではダメなの。前にも言ったように、抑制の心を解放しなければならないわ。自分はボイであることを受け入れなければならないの」 とキムはズンズン鳴り響く音楽の中、説明した。
「じゃあ、淫乱のように振舞わなければならないと? 知ってると思うが、ボイがみんながみんなそうなるわけじゃない。たいていのボイは、変化の前と同じ生活を送っている……」
キムが彼の言葉を遮った。
「でも、あなたはそういうボイのふりをするわけじゃないでしょ? あなたは、カネをもらって、裕福な男のセックス相手になる、そんなタイプのボイになるわけでしょ? だったら、そういう人間にならなければ」
確かにそうである。デビッドは、キムに言われたことを念頭に置きながら、近くで踊るダンサーを見続けた。そのダンサーは、カウボーイのコスチュームで現れ、踊りながら徐々に服を脱いでいき、最後は、乗馬用のチャップス(
参考)だけになっていた。
デビッドのすぐ近くで、そのダンサーの大きな黒いペニスが、踊りに合わせて跳ねていた。そして、デビッドは自分の小さなペニスが勃起していることに気づきうろたえた。さらには、思わず、ダンサーにお札を出すことまでもしてしまう。
「すぐ戻ってくるわね」とキムは、人ごみの中に姿を消した。デビッドは座ったままだったが、どこかそわそわしていた。
しばらくすると、キムが戻ってきて、デビッドの手を掴んだ。彼女の手の方が大きかった。
「一緒に来て」
キムはデビッドを奥の部屋へと連れて行った。用心棒の男がカーテンを抑えて、ふたりを中に入れた。中に入るとキムはデビッドを椅子に座らせた。
「これから何をするんだ?」 とキムに訊いたが、デビッドは何が起きるか、充分、知っていた。
上半身裸の男が入ってきた。ムキムキの身体で筋肉が盛り上がっていた。
キムがその男に言った。「この人、私のボイ友だちなの」とデビッドを指差した。「彼にいい思いをさせてあげて」
そう言うなりキムはカーテンの向こうへと去ってしまった。
男はダンスを始めた。最初にズボンを脱ぎ、続いて、下に履いていたGストリングも脱いだ。男はダンスしながら、ペニスをデビッドに擦りつけたり、彼の顔の前でぶらぶら揺らして見せたりをした。
「触ってもいいんだぜ」 とストリッパーが言った。「そこに座っていなくてもいいんだ」 そう言い、男は後ろ向きになり、デビッドの顔に尻を突き出した。
デビッドは自分の役割を知っていた。恐る恐る手を伸ばし、男の逞しい尻肉を優しく撫でた。大理石のように固かった。
「ほらほら、もっとリラックスして!」と男はデビッドを促した。
その促し通りに、デビッドは気を緩めた。彼は興奮して、淫らな気持ちになっていた。これまでのデビッドであれば、こういう淫らな本能を制御しただろう。そういう習慣を守ってきたからだ。すべては冷静に、計算しつくし、本能を心の奥にしまいこむ。男性であった時ですら、彼は滅多にハメを外すことはなかった。確かに性的行為を行う相手はたくさんいたし、そういう行為も行ってきたが、普通は、単なる性欲の発散のためだけであった。女性に惹かれるし、興奮もする。だが、そういった欲望は、いつも心の奥にしまいこんでいた。
だが、今は、違っていた。抑えきれないものを感じる。彼は押さえこんでいた欲望を解放し、前面に溢れ出て来るのを止めなかった。いや、もっと言えば、自ら欲望を駆り立てたとも言える。ミッションのためという大義もあり、強制的に自分を興奮した状態にした。溢れそうになっていた貯水池の水門を開くようなものだった。
すぐにデビッドは両手で男の身体じゅうを触りまくり始めた。男の固い腹筋に触れる。盛り上がった胸板を撫でまわる。大きく強そうな両腕に沿って手を滑らせる。そして、最後に、彼は男の半立ちの一物に触れた。
それは彼が想像したより柔らかかった。小さな手で、その大きく黒いペニスを握った。握りきるのがやっとの太さだった。そのペニスは、彼が握ったことに反応し、少しずつ固さを増し始めた。
そして、デビッドはゆっくりとしごき始めた。ペニスを握った感触を楽しむように、ゆっくりとしごき続ける。やがて、それはどんどん固くなり、完全に勃起した。その状態になると、デビッドはほとんど本能的に、何も意識せずに、顔を寄せ、先端を舐めたのだった。その時になって、自分の行為に気づき、彼は顔を引いて、恥ずかしそうに言った。
「あ、ごめんなさい。私……」
「いいんだぜ。したいことをすればいい。お前のカネでやってるんだからな」 と男はニヤニヤしながら言った。「舐めたかったら、好きなだけ舐めていいんだぜ」
デビッドは恥ずかしそうに微笑み、再び顔を近づけた。最初は舌を伸ばして、先端を舐めるだけだった。片手で男の重たそうな睾丸を撫でながら、もう片手で男の逞しい胴体を擦りまわった。
だが、2分ほどすると、彼は亀頭を口に入れ始めた。彼の小さな口には大きすぎる亀頭だったが、デビッドはやり遂げると決意していたし、何より、淫らに興奮もしていた。それから程なくして、彼は肉茎を吸いながら、頭を上下に振っていた。
これがデビッドにとって初めてのフェラチオだった。短時間で終わったし、汚らしい行為であったし、唾液でベタベタした行為でもあったが、最後までやり遂げた。ストリッパーはデビッドの口の中に射精した。塩辛い味がした。
男が身体を引き、ペニスを引き抜くと、デビッドは口の中のものを床に吐き捨てた。
「飲み込むボイだとばかり思ってたが」 とストリッパーは肩をすくめた。「やりたくなったら、また来いよ」 彼はGストリングを履きなおし、部屋から出て行った。
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