デイビーは、デッキの上、裸でくつろいでいた。隣には女の子がふたり、ボイがひとりいて、同じように全裸でくつろいでいる。どの娘もボイも息をのむほど美しい。だが、デイビーは、自分が最も美しいと知っていた(それにその事実にプライドも感じていた)。
あわただしい一日だった。その日の朝、彼は9時少し前にドックに出向いた。服は、下はキュートなデニムのショートパンツ、上は、お腹のところが露出するタンクトップを選んだ。
ドックに行くと、豪華な船にエスコートされた(多分、全長40メートルはありそうだとデイビーは思った)。船室は複数階にわたって存在し、ヘリコプター発着場や、ジャクージ、小さなプールもあった。100万ドル以上はかかっただろうと思われる。
巨大な船の船内を手短にひと通り案内された後、彼は居住することになると思われるところに連れて行かれた。そこは大きな部屋で、船室があるひとつの層をほぼ丸々占有していた。この部屋を他の者たち(彼を除くと、ボイ2名、女性4名)と共有する。とは言え、それでも充分すぎるほど、大きな部屋だった。
「ベル博士は、お前たち全員に同じベッドで寝てほしいとお考えだ。だが、それは義務と考えなくてもよい」とクラレンスは皆に説明した。「もし嫌なら、取り計らうことができる」
連れてこられた者たちには、招待してくれた人のご機嫌をそこねたいと思う者は誰もおらず、ベッドはひとつで構わないと同意した。実際、見てみると、そのベッドは過剰なほど大きなベッドで、7人が一緒に寝ても、充分、余裕があるものだった。
バスルームはふたつあり、大きな浴槽も自由に使えるようになっていた。どうやら、ベル博士は、ハーレムに属する者たちには、何一つ不自由させないと思っているらしい。
デイビーのミッションは単純ではあったが、同時に、極めて厄介でもあった。そのミッションは、博士が船内に例の物質のサンプルを持っているかどうかを調べること(入手した情報によれば、実際、船内にあることを示唆している)。そして、もし船内にあるなら、それを入手する方法を探り、盗み出すことだった。加えて、博士の研究に関して、できる限り多くの情報を集め、船外のエージェントに伝えること。
確かに、単純な使命である。だが、最も順調に遂行するにしても、最大4ヶ月は、あのテロリストに囲われたハーレムのボイとして船内で生活しなければならない。もっとも、それは、捕まって殺されるよりはましなのは確かだ。
そういうわけで、デイビーはキャラクタを変えずにいた。すでにこの3ヶ月ほど、そういったキャラクタで生活してきたわけで、それ自体は難しいことではなかった。
初日の生活が、彼の船上での生活全体の基調となった。日中の大半の時間は、プールのそばに裸で横たわり、他の者たちと一緒に日光浴をする。それだけだった。時々、船員のうち誰かが近くに立ち寄り、美しいボイや女たちを眺めては、また仕事に戻っていく。
暇を持て余したボイや女たちは、必然的に自分たちの生い立ちについて話し始めた。ボイのひとり(パーシーという名のブロンドのボイ)は、変化する前は建設関係の労働者だったと言う。もう一人のボイは、エリックという名の茶髪で、哲学を専攻していた大学生だった。女性たちは、エイミ、イングリッド(スウェーデン人)、そしてベティだった。エイミは小柄だが、曲線美が豊かな茶髪の女性で、プロのダンサーだと言う。イングリッドはモデル志望の女性。そしてベティは専業主婦だったが、少し前に夫婦関係が国の指示により解消されてしまったと言う。
各自の自己紹介が終わりにさしかかった頃、クラレンスが現れた。
彼はデイビーを指差した。「お前……ベル博士がお呼びだ」
デイビーは、クラレンスがじっと見つめているのを感じながら、気だるそうに立ち上がった。クラレンスは彼を船の1階に連れて行き、その後、エレベータへと導いた。エレベータは最上階まで一気に上がった。ドアが開くと、非常に豪華な部屋が目の前に現れた。
天井にはクリスタルのシャンデリアがあり、穏やかな波の揺れに合わせて、ゆったりと揺れている。部屋全体の壁は、濃い目の色の、丁寧に磨き上げられた木板で覆われている。(デイビー自身はアートの審美眼はないが)非常に高額そうに思える絵画が壁に掛けられており、床にはオリエンタル風のじゅうたんが敷かれていた。
部屋の奥には踏み段がふたつ、交差するように上に伸びていて、バルコニーに通じている。そのバルコニーには4柱つきのキングサイズのベッドがあった。ベル博士は、そのバルコニーに立っていて、デイビーとクラレンスを見おろしていた。ベル博士はシルクのトランクスにバスローブを羽織っただけの格好でいた。
「おお、可愛いねえ」 とベル博士が言った。「さあ、君と私でもっと互いを知り合おうじゃないか」
デイビーは踏み段を上がった。彼の小さなペニスが、段を上がるたびに揺れていた。踏み段を上がりきり、ベル博士の前に立つ。
「君の姿をもっとよく見せてくれるかな?」 とベルは指を伸ばしてクルクル回す仕草をした。
デイビーがゆっくりと回るのを見ながら、ベル博士は言った。
「知っての通り、私が君をこうしたのだよ。私が君を今の姿に変えた」
「ええ、知っています。ありがとう」
「変わる前は何をしていたのかね?」
「私? 今もそうですが、学校の教師をしています。中学の英語の」 とデイビーは嘘をついた。
「おお、そうなのか? じゃあ、どうして君は、いま教室にいないのかな? 教室で思春期の子供たちに名詞や前置詞を教えていないのは、どうしてなのかな?」
「1年間、休暇を取ったんです。その……変化に慣れるまで、ということで」と、デイビーはさらに嘘を続けた。これは、キムと一緒に作り上げた設定だった。
「それで? それはどんな調子なのかな? もう順応したのかな?」 とベルはニヤニヤしながらデイビーに近づいた。
「え、ええ……」 とデイビーは答えた。ベルの顔がすぐ近くに来ている。
「見せてもらおうか」 とベルは命じ、デイビーにキスをした。
デイビーは、心の中、トレーニングしてて良かったと思った。ミッションが始まる前のトレーニングと、その後の、この船に乗り込む前の何ヶ月間の時間の両方に感謝した。それがなかったら、このテロリストに対する嫌悪感で、顔を引っ込めていたことだろう。
だがトレーニングの甲斐もあり、デイビー自らキスを返した。何秒か唇を重ねた後、デイビーはキスを解き、ベル博士の首筋に唇を這わせ始めた。小さなキスを繰り返しながら、徐々に首筋を下り、胸板へと進む。黒肌の胸板に唇を寄せながら、両手を胸に当て、ベルの白髪まじりの胸毛を指で掻いた。さらに下方へと移り、少したるんだ胴体へとキスを続けた。デイビーは、ベルはだらだら過ごす時間をもう少し減らし、運動をする時間を少し増やすべきだと思わざるを得なかった。
流れるような滑らかさで、デイビーは床へと両膝をつき、ベルのトランクスのゴムバンドに指を引っかけた。そして、それを引き降ろす。ベルのペニスが姿を見せた。小さいと言うわけではないが、大きいとはとても言えない。平均よりちょっと小さいくらいだろうと思った。
そのペニスにキスを始めると、奉仕に報いるように、固くなり始めた。ベル博士は片手をデイビーの頭に当てたが、デイビーは急ぐ気はなかった。彼は、経験から、焦らした方が、ペニスを口に入れた時の快感がはるかに増大することを知っていた。
時々、唇で亀頭を包んだりするのを加えながら、2分ほど舐め続けた。そうやって焦らした後、口に含み、吸い始めた。デイビーは、パーティ好きのボイとして何ヶ月間か暮らす間に、多くのことを学習したのである。今や彼のフェラ・テクニックは非常に熟達していた。
「ベッドに上がれ」 と2分ほどした後、ベルが指示した。「お前の可愛い尻にヤッテやる。……いや、四つん這いだ。ああ、その格好だ」
四つん這いになったデイビーの後ろにベルがついた。彼のペニスは、ほとんど抵抗なく滑り込んできた。そして挿入と同時に抜き差しが始まる。
ベル博士はセックスの技量もなければ、スタミナもなかった。ただ、しゃにむに出し入れを繰り返すだけ。とはいえ、それはデイビーにまったく快感を与えなかったというわけではない(もっとも、デイビーはオーガズムには達せなかった。彼は演技で、達したフリをした)。その行為は、たった2分ほどで終わってしまった。
ベル博士は、行為が終わると、デイビーから離れ、彼の隣に仰向けになった。ハアハアと息を切らしている。
「もう戻っていいぞ」
と彼は言った。
*
そういう調子で2週間ほどが経った。
ベル博士はひとりだけ相手にする時もあれば、ふたり一緒に、あるいは3人一緒にすることもあった。さらには全員一緒にということもあった。デイビーは、ひとりだけ相手にするときは、自分が他の者より多く選ばれているのを感じた。複数でする時は、特にボイ同士で絡みをすることが多かった。それがベル博士の特にお気に入りらしい。
ミッションに関して言えば、デイビーは、初めのうちは何もしないことにしていた。彼は、彼自身を含め、女やボイたちがベル博士の手下たちに見張られていることを知っていた。なので、デイビーは、船の詳細をすべて心に留めつつも、役になりきって行動し続けた。
だが、すでに、ベル博士の実験室や作業場、あるいはオフィスがありそうな場所はつきとめていた。おそらく、それはデッキの直下の階だろう。一度、ベルの寝室に連れて行かれる途中で、その階の様子を垣間見たことがある。部屋のドアの前には、武装した衛視がふたりいたし、ドアノブの近くにキーパッドがあった。
ある日、デイビーが他のボイや女たちと一緒にベッドに座っておしゃべりをしていた時だった。この日も全員、全裸だった。彼らは滅多に服を着ない。着るとしたら、普通はランジェリだけである。おしゃべりしているうちに、ちょっと興味深い話題が持ちあがったのだった。
「ある物語があって、その物語の敵役がレイシストだったとするよ。そういう場合、その物語自体も差別主義的になると思う?」 とエリックが言った。
「もちろん、そんなことはないわ」 とデイビーが答えた。
「いや、最後まで言わせて」とエリックが続けた。「物語全体が、差別主義的な行為に基づいているとするの。例えば、だけど、私たちが置かれている状況を物語にしたとしてみて? 話しのための仮定としてね。そんな場合、私たちが主人公だわ。いわばヒーロー。じゃあ、悪役は誰かというと……」
「ベル博士」 とエイミが口を出した。
「その通り」とエリックが言った。「ベル博士は、あからさまにレイシスト的な理由で世界中に例の化合物を撒き散らした。そこで、誰かがそのことについて物語を書いたとするね。その場合、その物語を書いた作者は、あるいは物語自体でもいいけど、差別主義的だってことになるのかしら?」
「私はそうは思わない」とデイビーが言った。「つまり、ベル博士が悪者だとしたら、その物語は、彼がやったことを許さない結末になるということでしょ?」
「まさにその通り」 とエリックが答えた。「でも、ここからが問題だけど、その物語が私たちのように展開したとしたらどうなる? 私たち、みんな、変化があって結局ハッピーになっているわよね? そうでしょ? そのことは、ベル博士が悪者で、彼の差別主義的な行為が、少なく見ても、狂っていて間違っていたという事実を変えてしまうかどうか、なんだけど。どう?」
「もちろん、変えない」とデイビーが言った。「物語の中のキャラクタたちが頑張って、自分たちの新しい人生を何とか良いモノにしようとしているからと言って、作者がベルがしたことを許していると言うことにはならないわ。もっと言えば、正反対のことを言ってることになると思う。そういう物語は、少なくとも風刺と言えるんじゃないかと思うの。多分、何かのフェチのポルノ小説のようなものを狙った、書き方もマズくて、場違いの、嫌な書き物でしょうけど。でも、風刺なのは確かじゃないかしら。国とか民族が過去に行った悪事に対して、いま生きている人たちが償いをしなくちゃいけないという考え方をバカにする風刺。過去の出来事を過去にとどめ、現在や未来のことに目を向ける。人間にはそれができないという考え方って、本当に広くいきわたっているでしょう? しかも、どの社会にも見られる考え方。それをからかっているのよ。でも、そういうことを全部、吐き出すにも書き方があるかと思うけど」
「バカな演説はやめて、ソープボックスから降りなさいよ(
参考)」とベティは、デイビーに枕を投げた。「でも、その仮想上の物語にはいいところを突いてるかもよ」
その後の会話は、(そもそも、どうしてこのような話しが出てきたのか誰も分からないまま)「もし、あの時、こうだったら?」とか他の仮定の物語の話しへと流れていった。例えば、レイシズムを表現する物語は、誘拐、拷問、子供相手の性交やレイプを表現する物語(エリックは、そういう題材はレイシズムよりもネガティブな反応を受けにくいと主張していたのだが、そういうの)よりも悪いのかどうかといった議論から、それぞれ、どういう趣味嗜好に一番興奮するかといった話題に至るまでいろいろあった。
だが、その日のおしゃべりを通じて、ハーレム仲間の間では、デイビーは知的だとの評判が高まり、彼は尊敬を集めたようだった。その夜は、みんな身体を寄せ合うようにして眠った。
*