日々がだらだらとすぎていった。毎日、同じようなことの繰り返しで、デイビーも退屈し始めていた。ハーレム仲間みんなに、さまざまな性的な行為が行われた(通常の性行為とは違うことも多かった)。それにデイビー自身、楽しんでいたのは間違いない。それでも、デイビーはどうしても時計がチクタクなる音が聞こえてくるのだった。1ヵ月がすぎたのに、ミッションに関してはほとんど進展していない。彼は、いまだにベルのお気に入りの行為相手だったが、だからと言って、任務遂行の機会が増えるわけではなかった。
1ヵ月はすぐに2ヶ月になり、デイビーは、そろそろ動きださなければならないと思った。ベルは、すでに、ベティとパーシーのふたりに飽きていた。ふたりは、ベル博士よりクラレンスに抱かれる方を切望するようになっていた。ふたりは、クラレンスの方がセックス相手としてベル博士よりもずっといいと言っていた。
2ヶ月目はやがて3ヶ月目になり、デイビーはパニック寸前の状態になっていた。その頃までには、ベル博士はデイビー以外の者たちを相手にすることは、ほとんどなくなっていた。ということは、とりもなおさず、ほぼ毎日、デイビーはベル博士に抱かれるようになっていたことを意味する。
そして、出港してから3ヶ月半になったある日、クラレンスがデイビーのところに来て、言った。
「我々は、明日、入港する。ベル博士は、その前にお前に会いたいとおっしゃってる」
その時の行為も、他の時と変わらなかった。クラレンスに連れられてベル博士の部屋に行くと、ベル博士はすぐにデイビーを四つん這いにさせ、後ろから突きまくり、彼に快感の叫び声をあげさせた(もちろん、演技であるが)。そうしてベル博士が射精すると、しばらくふたりで横たわったままになり、その後、デイビーは部屋を出ようと起き上がるのである。
だが、この日、デイビーが起き上がろうとすると、ベル博士は呼びとめた。
「いや、もうちょっとここにいなさい、デイビー」
デイビーはベッドの上に座った。これは、これまでなかったことだった。
「私の隣に横になるんだ」 とベル博士はベッドの上をトントンと叩いた。
デイビーは言われた通りに横になった。背中を向けて、お尻をベルの股間にくっつけた姿勢でいた。ベルは後ろから手を回して、何気なくデイビーの乳首をいじり続けた。
しばらくそうしていた後、ベル博士が突然、言葉を発した。
「お前のことは知ってるのだよ、デイビー・ジョーンズ。……政府のエージェント。否定しようがないな。お前がこの船に乗ってきた最初の日から知っていた。私が作り上げた新世界を覆そうとしているボイを犯すのは、実にワクワクしたものだ。お前も楽しんでいたようだな。かなり喜んでいたようだ」
デイビーはくすくす笑った。「いいえ。そうでもないわ。あなたのあの小さなおちんちんで? まさか。最初に見た時、あなた自身がボイかもしれないと思ったほど」
ベルはデイビーの尻頬をピシャリと叩いた。かなり強く。
「良いボイは、目上の者をからかったりしないものだぞ!」
しばらく沈黙が続いた後、またベルが言葉を発した。
「クラレンスから聞いていると思うが、明日、我々は入港する。お前は船から出るのは許されない。入港するまでは部屋に戻ってもいいが、我々が上陸している2日間は、お前は監禁することにする。もう行ってもいいぞ」
そしてベルは再びデイビーの尻を叩いた。「それと、再び海に出た後は、もうお前はここに来なくていい。恩知らずのボイは不要なのでね」
*
部屋に戻るまでの間、デイビーは焦燥した。顔にも不安が出ていたに違いない。それを見たエリックが尋ねた。
「どうしたの? 何かあったの?」
「いえ、何も」 とデイビーは嘘をついた。「何か身体に合わない物を食べたみたいで、気持ち悪いの。それに、ベル博士に、みんなよりここに長くいるよう言われたし」
彼のハーレム仲間はみんな笑顔になり、デイビーを祝福した。エイミが声を上げた。
「気をつけていないと、ベルのお嫁さんにされちゃうわよ。デイビー・ベル夫人! 素敵な指輪をもらえるわね」
「ええ、たぶん」 とデイビーは言い、横になった。
ベティはバスタブに入っていた。脚の毛を剃っている。
「あなたたちボイが羨ましいわ。何でも持ってる。妊娠する心配をしなくてもいいし、身体は最高だし、それに脚の毛を剃る必要がないなんて! この剃刀負けを気にしなくても良くなるには、どうしたらいいのかしら……」
デイビーはその後の話しを聞くのをやめた。さんざん聞いてきたことだった。デイビーは、これまでの人生で初めて、今後どうしたらよいか分からなくなっていた。
*
予定の入港時間の2時間ほど前、クラレンスがハーレムに現れ、デイビーを別の部屋に連れて行くと言った。デイビーは仲間に手短に別れのあいさつをし、船を離れる時が来たら、必ずみんなに会いに行くと約束した。
その後、彼はクラレンスにエスコートされて、このクラレンスが居住していると思われる部屋に連れて行かれた。その部屋はベルの部屋ほど豪華ではなかったが、それなりに快適そうな部屋だった(小さかったが)。シングルベッドがひとつだけで、歩きまわれるようなスペースはあまりなかった。
クラレンスはデイビーにベッドに座るよう指示し、自分はデスク脇の椅子に座った。
「これから2日間、俺がお前の見張りをすることになる。もし、服を着たいなら、着て構わない。この部屋では裸になってる必要はほとんどないから」
クラレンスは、そう言いながら、デイビーの身体に目を向け、顔に少し不快そうな表情を浮かべた。
その表情を見た瞬間、デイビーは急に裸の自分があからさまに露出していることを実感した。デイビーはこの3ヶ月間、ほとんどずっと全裸のままで過ごしてきた。だが、この逞しい見張り役の男のちょっと不快そうな顔を見た瞬間、彼は急に裸でいる自分が恥ずかしくなったのだった。
デイビーは自分の小さなスーツケースを取り出し、それを開けた(そのスーツケースは、初日に着てきたショートパンツとタンクトップを入れた後は、一度も開けていなかった)。そして、中からパンティを出し、履いた。その後、ジーンズと白いブラウスを出し、それを着た。
服を着た後、デイビーはベッドに横になり、クラレンスの様子を観察した。この男と肉体的に戦って勝つ可能性はゼロだろう。彼はNFLのディフェンスのラインマンのような体つきをしている。
「それで、あなたはどのくらいベル博士の元で働いてきているの?」 とデイビーは声をかけた。
「もう10年以上だ。博士の組織の保安部の長をしていた。博士が……博士があの化合物を放出するまでは……」
その言葉の最後のところを言う時、クラレンスがちょっと苦々しく思ってる様子であるのをデイビーは察知した。
「その前は何を?」
そう問いかけたが、答えは返ってこなかった。
「ねえ、私たち2日間もここに閉じこもることになるのよ。ちょっとおしゃべりしたら、気が楽になるんじゃないかしら?」
クラレンスはそれでも黙ったままだった。デイビーは、聞えよがしに溜息を吐き、仰向けになって枕に頭を乗せた。
少し沈黙があった後、クラレンスが答えた。
「俺は15年間、海兵隊にいたんだ」
「じゃあ、たくさん戦闘に加わったのね?」
「ああ、かなりな。だが、あまりそれについては話したくない」
「ベル博士が国の敵になってることについては、どう思ってるの?」
「ベル博士は偉大な人だ」 クラレンスはそれしか言わなかった。
「でも、あなたも、彼がしたことは間違ってると分かってるはずよ。あなたの道徳心は彼のほど、ひねくれてはいないのは確かだもの」
「白人と黒人の間のレイシズムが、今は、ほとんど消えているのを知っているか? 考えてみろよ。今は、白人は黒人を嫌ってはいない。もっと言えば、積極的に黒人との交際を求めている。黒人の方も白人を嫌ってはいない。今は、白人とセックスしたいと思ったら、前ほど苦労しなくてもよくなっているだろう。確かに、多少は、周辺的な人種間のいざこざはある。だが、そういうのは急速に圧倒的なマイノリティになってきてるんだ」
「でも、ベル博士が破壊した人々の人生については、どうなの? ばらばらになってしまった家族がたくさんいるわ」
「コラテラル・ダメージだよ(
参考)」 とクラレンスは答えた。
そして、「ベル博士は偉大な人なんだ」 と付け加えた。まるで自分を納得させるために言っている感じだった。