ウェンディのお友だちのジーナ。頭からつま先までよくよく見た。この子もすごく可愛い。ウェンディとジーナは、高校時代、カッコよくってセクシーなふたりとして有名だったのは明らかだ。ジーナの背の高さはウェンディとほぼ同じ。髪の毛は長くて、濃い目の赤色。肌には軽くそばかすがある。上はビキニのトップで、下はカットオフのジーンズ。その引き締まったお腹に目を疑う。過剰に筋肉っぽいわけではなく、とても女の子っぽいお腹で、肌もちょうどよいくらいの日焼け。脚はすべすべしている感じで、そばかすは顔ほどはない。そして胸。彼女の胸も大きい。あたしのほどじゃないけど。
端的に言って、ジーナはウェンディと同じく、とても素敵でしかも一緒にいて気楽そうな人だった。
ふと、あたしは、ずいぶん長くジーナのことをじろじろ見ていたと気づいて、あたしは顔を赤くして、うつむいた。ウェンディはあたしが気まずい感じになっているのに気づいたのか、いつもの彼女らしいのだけど、うまく話題を転換して、雰囲気を救ってくれた。
「ああ、良かった。何か出しててくれていたのね? 昨日の夜、飲みすぎたみたいで、まだ二日酔い状態なの。何か水分補給になるものが欲しかったところ!」
ウェンディはそう言って、あたしの身体の前に手を伸ばし、あたしのミルクが入ったカップを掴んだ。あたし自身もまだ味わっていないので、気をつけた方がいいと、注意しようとした。だけど、その時、ウェンディがあたしの耳元に囁いたのだった。
「ワンダーブラかなにかつけてるの? すっごく良く見えるわよ!」 とウィンクしながら小声で言った。
その言葉に、あたしはとても嬉しくなって、あのミルクについて警告するのをしそびれてしまった。ウェンディはカップを唇のところに持ち上げ、中の白い液体を口に入れるのを見ているだけだった。ウェンディは大きくひと口分、口の中に入れた。喉のところが動いたので、あたしが出したミルクが彼女のお腹の中に流れ込んだのが分かった。
「あら、ミルクだとは思わなかった!」 と上唇に白い髭をつけながら言う。それを舌でゆっくりと舐め取ってから、「でも、美味しいわ。甘いし。これ何なの? バニラ風味の豆乳とか? それに温かいのね。豆乳とかって冷蔵する必要ないらしいけど」
あたしは、何か言おうと口を開いたけど、何も言えず、また閉じた。
「あたしにも飲ませて?」 とジーナが言った。
あたしはどうすることもできず、ただ見ているだけ。ジーナはウェンディの手からカップを奪い、自分の口に当てた。この子もあたしのミルクを飲んでいる。あたしは不安感が募ってきて、口の中が渇くのを感じた。
ここから逃げたい。自分の部屋に引きこもりたい。
「ほんと、これ、美味しいわ」
「だめ、これはあたしがいただくわ」 とウェンディはジーナからミルクを奪い返し、素早くひとくち啜った。「あなたが、あたしの最後のスナップル(
参考)を飲んだの知ってるんだから。これでおあいこ」
「ヘイ、君たち、キックオフを見逃しちゃうよ!」
男子のひとりが言った。そちらに目をやると、彼はあたしのところを見ていた。その時、そういうことがあったら、嬉しくなると思っていたのに、実際は、あたしは自分が恥ずかしい感じがしたのだった。
「いま行くわ!」 とウェンディが彼に言い、あたしにも「見に来ない? いい試合になると思うわ」と言った。
あたしはリビングにいる人たちを見た。一緒に見たいと言いたかった。本当にそう言いたかった。でも、言えなかった。この時も、みんなから離れたいと思ったのだった。
「いいえ、あたし……。しなければならないことがあるから……」
ウェンディは怪訝そうな顔をした。あたしは変な振舞いをしていたに違いない。自分でも変だと知っている。でも彼女は何も言わなかった。
「オーケー、分かったわ。後で時間ができたら、来てね」
「おいおい、いま来てくれよ!」 と部屋の中の男子が言い、他の男子が笑った。
「落ち着けって」 と他の男子が彼に言った。
もう、これ以上、嫌だった。くるりと向きを変え、キッチンから素早く出た。キッチンを出たところで、立ち止り、呼吸を鎮めた。
いったい何が起きたの? オーガズムを感じたことを考える時間もなく、ウェンディと彼女のお友だちがみんな入ってきて、そして、あたしは、以前のあたしとまったく同じように、みんなの前では固まってしまい、そしてウェンディとジーナがあたしが分泌した母乳を飲んで、そして……。
「ウェンディ、君のルームメイトはセクシーだって、どうして教えてくれなかったんだい?」
あたしを見つめていた男子が言ってるのが聞こえた。今はそれを聞いて、嬉しく感じた。でも、彼の横に立って、それを聞いたら、たぶんあたしは完全に恥ずかしくなっていたたまれなくなっただろう。あたしはキッチンのドアに近寄り、みんなが言ってることを立ち聞きした。
「変態ね!」 とウェンディが答えた。そして、別の男子の声を聞いた。多分、ウェンディのいまの彼氏だと思う。
「でも、君が彼女とルームメイトになっている理由が僕には分からないんだ。君たち友達同士という感じじゃないだろ? それに彼女、すごく変だよ。世捨て人みたいな感じ。でも、かなり可愛いしセクシーなんだけどね」
その後、その男子が枕で顔を叩かれたような音がした。
「嫌な人!」 とウェンディが言ったけど、怒ってる声じゃなかった。
「分からないわ。覚えているのは1年生が終わった頃。みんなが次の年のルームメイトを探してて、どんどんペアができていた。あたしの友だちはみんな完全な変人ばっかりだったし。でも、オリエンテーションの時、とあるきっかけで、彼女の両親がお金持ちだと知ったの。彼女と一緒なら、彼女が家賃を払わないとか言わないだろうと思ってね。そういうことで心配しなくて済むもの。例えばローラをルームメイトにしたら、そういう心配をすることになったと思うのよ」
ああ、それで、ずっと前から思っていた疑問が解けた。どうしてウェンディがあたしをルームメイトに選んだか? 親がお金を持っていたからなのね。いま頃になって、こんなことを知るなんて。もっと前にこんな嫌な気持ちになれてたら……
「ずいぶん冷たいな!」 と男子のひとりが言った。
「いえ、いま言ったこと、ひどいことなのは知ってるわ。あたし、たぶん、嫌な女だったのよ。でも、いまは違うの。ラリッサは本当にいい人なのよ! どういうわけか、狂ってるほどシャイだけど、でも、いまなら、彼女が裕福な両親を持っていなくても、彼女をルームメイトにしたいと思ってるの」
それを聞いてちょっとだけ、気分が直った。
「ともかく」 と別の男子の声がした。「俺は冷蔵庫からビールを持ってくるよ。誰か、他に欲しいものはある?」
あたしについての話しは、たぶん、そこで終わったのだろうと思い、あたしはキッチンのドアから離れ、がっくり肩を落として、自分の寝室に戻った。またも、負け犬になった気分。