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あたしは廊下に立っていた。ほとんど過呼吸の状態になっている。心臓が激しく鼓動し、いろんな気持ちが頭の中を駆け巡る。あのドアの向こう、あたしがどんな光景を目にすることになるか、見る前から知っていた。この1ヶ月、断片的情報を集めてきたけど、それをしなくても、あの部屋から聞こえてくる声がどんな声か、間違えようもない。砂の中に頭を埋めて、何も知らない、自分は間違っていると思い込もうとしたけど、どうしても見なくてはいけないという気持ちだった。反論できない証拠が必要だった。
そして、あたしは、少なからざる努力をして、ゆっくりで安定した呼吸を行い、葛藤を鎮め、これまでのあたしの行動の目的を達成するに十分なほどの落ち着きを取り戻した。ドアノブを回し、ドアを押した。そのドアは重いドアだったけれど、音を立てることもなく簡単に開いた。カウチにいたふたりは、あたしがドアを押し閉め、それが重々しい音を立てるまで、気づきもしなかった。
「な、なに!」 馴染みがあったはずの声の主の叫び声。「な、何てこと…ああ…ナタリー? ど、どうして……こ、これは違うの……ああっ……」
あたしが探し続けた彼がそこにいた。行方不明になっていた夫。1年前、「調査」旅行に行くと言って出て行った夫。その夫が、ほとんど全裸で、逞しい男の上に乗り、大きなペニスをアヌスに埋め込まれていた。
「事実じゃないと期待していたのに」 あたしは言った。声に悲しみがにじんでいる。怒りもあったけれど、むしろ、失望感の方が上回っていて、それに打ち消されていたと言える。「1年前、あなたが仕事を首になったのを知ったとき、あたし、わけが分からなくて混乱したわ。特に、おカネは振り込まれ続けていたから。もっと言えば、以前よりもずっと多額のおカネ。あなたが別の仕事をしていると悟るまで、あまり時間はかからなかった」
「ぜ、全部、説明するよ。それに…」
あたしは手を振って、説明を断った。「いらないわ」 自分でも驚くほどに平然とした口調の声になっていた。「分かってるから。確かに、断片的な情報を集めてつなぎ合わせるのに、時間がかかったけれど。でも、あなたが解雇された理由を知ったら、そんなに難しいことじゃなかった。女子高生の格好をして、上司とセックスしているところを見つかったんだってね? それって変態的だわ、チャーリー。あなたみたいな人にしても、かなり変態的」
「そんなことしてない」
「黙りなさいよ!」 次第に怒りが勝ってくるのを感じた。「もし、あたしに女装を試してみたいと言ってくれてたら、あたしも心配せずにすんだのに! 楽しいことかもしれなかったのに。自分はゲイだとか、女の子になりたいとか、そう言ってくれてたら、理解を示すこともできたのに。あたしに正直に言うべきだったのよ、あなたは!」
あたしは顔をそむけた。「でも、あなたはそうしなかった。そしてあなたは別の道を選んだわけよね? 隠すことに決め、1年間の調査プロジェクトで旅行に行くとバカバカしい話をでっち上げたのよね?」 あたしは彼の方へ振り返り、明らかに女性的になった体を指さした。「その間、あなたは変身していた。そうでしょ? そのカラダへと自分を変えていた」
あたしは声に出して笑いだした。かすれた笑い声になっていた。「あなたがカラダを売るようになったのって、当然のように思うわ。あなた、製薬会社での仕事、一度も気に入っているように見えなかったもの。そうだったんじゃない? いつも勤務時間が長すぎると文句を言っていた。でも、報酬がすごく良かったので、職を変える選択肢がなかったのよね? でも、娼婦の方がずっとペイが良いってことなのね? そのことであなたを責めることはしないわ。あたし自身は賛成していないにしても。だって、あなたの人生だものね」
「でも、ナタリー。僕は……」
「やめて。あたしは、別にここに話し合いをしに来たわけじゃないの。あなたの言い分なんか聞きたくないわ。そんなのどうでもいいのよ、チャーリー。今はどんな名前で通っているのか知らないけど。あたしがここに来たのは、あたしたち離婚をするということを言うため。あなたは自由に自分がなりたい人になればいいと言いに来ただけ。もう、嘘をつく必要はない。自分を誤魔化す必要もないと」
そう言って、あたしは背中を向け、部屋を出た。後ろで彼が何か文句を言ってる声が聞こえたけれど、気にしなかった。あたしは、確かめに来ただけだ。それをやりきったのだ。