1年後
父が電話をしてきた。
「今日、家に立ち寄って、私たちに会いに来てくれないか?」
「どうして?」
「深刻な問題があって、どうしても話をしたいんだよ」
「今、どこに住んでるの?」
僕は、あの日、出て行ってから、彼らには一度もコンタクトを取っていなかった。それに、向こうから誰かが僕に話したいことがあると言ってきても、僕は興味がないからと、話を断ってきていた。父から住所を聞き、ある意味、驚いた。今は政府が運営している、低所得者用の住居に住んでいるのだ。以前の父たちの生活水準からすれば、激しい落差である。
僕は不動産業の知り合いに電話して、僕が生まれ育った家はどうなったのか調査を依頼した。それから父に電話をかけなおし、そちらの都合がよければ次の金曜に行くがどうかと伝えた。父はそれでよいと言った。
火曜日、不動産の知り合いから電話が来た。あの家は倒産により銀行が差し押さえたらしい。父たちは半年以内に売却しようとしたが、うまくいかなかったらしいと言う。僕は銀行に電話し、あの家の担当者と話しをした。担当者から、父たちが望んでる家の売却価格を聞き出し、それより低い値段を持ちかけてみた。思ったとおり、僕の提示価格にすぐに飛びついてきた。契約をしたいので、夕方かなり遅くなるが、担当の人がその時間までいるかどうか訊いてみた。担当者は、これにもすぐに飛びついてきた。そうして、僕は、その日のうちに、例の家の所有者となったのだった。両親の昔の家の所有者となったのである。
続く金曜日、僕は父に教えられた住所に行った。ドアをノックした時、中で子供たちが泣き叫び、大人たちが怒鳴り散らしている声が聞こえた。
玄関には父が出た。父は僕を抱こうとしたが、僕は手を出し、ただの握手だけを求めた。これが父の心を傷つけるのは知っていたし、それを意図して行ったことである。父はリビングを通って、台所へと僕を連れて行った。
ごみ溜めのような家だった。家具は擦り切れ、壊れかかっていた。部屋中、臭いオムツの匂いがしていた。まさに、人間は、その住む環境によって変わるということを証明するものだと思った。
腰を降ろすと、父は何か飲み物が欲しいかと訊いた。僕はただ頭を振って断った。父は大きな声で家にいる者たちに呼びかけた。
「みんな、キッチンに来てくれ」
母、シンディ、ジョイスが現れた。それぞれ、赤ん坊を抱いていた。