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プリシラがあたしたちの横に立っていた。両手を腰に当てて、あたしたちを見下ろしている。猫なで声であたしたちを励ましている。「そうよ、そう! どれだけ気持ちいいのか、ちゃんと私に見せるのよ!」
あたしはヨガリ声をあげた。快感から出した部分はあるけど、大半は、プリシラに聞かせるため。プリシラは、あたしが自分の役割に十分に心から安住していることをちゃんと聞こえる形で知らせることを求めていた。そうしないと、彼女はあたしが本気になっていないのではないかと疑うかもしれなかった。あたしは、プリシラが不機嫌になるのは耐えられない。だから、あたしは、腰を動かし、その動きで双頭ディルドがあたしの奥深くに来るようにさせながら、たった一つの単純なメッセージを伝えるためにありとあらゆることをする。そのメッセージとは、いまのあたしが、あたしがなりたかった存在そのものになっているということであり、今あたしがしていることは、まさにあたしがしたいことだということなのである。
それは嘘だった。あたしは今の自分を憎んでいる。そして、その憎しみの度合いは、あたしが愛する女性である妻のレイチェルがこの憎むべき女にあたしと同じように罠にかけられてしまったという事実をあたしが憎んでいる、その憎しみの度合いと同じだった。あたしもレイチェルも、プリシラのおもちゃになってしまっている。呆れかえるほどの慰み物、好きなように操って楽しむ玩具。
こうなったのはあたしのせいだった。この状況すべて、あたしの数多くの過ちの結果だった。当時、どんな結果になるかを知っていたら、もっと注意を払っていたことだろう。プリシラとの関係で、こんな状況になるまで付き合うこともなかったことだろう。だけど、それは後から考えたこと。今の事実からすれば明白だけど、それを知ったからと言って、状況が改善することはほとんどない。もう、壊されたものは直らない。あたしが間違いを犯した。そして今、あたしはその結果を甘んじて受けなければならない。
始まりは、プリシラと最初に寝たときに始まったのだと思う。その時ですら、あたしは過ちを犯していると思っていた。なんだかんだ言っても、プリシラはストリッパーだったし、最後は良い結末になるなんてありえないと知っていた。だけど、彼女には抗えないというのも知っていた。プリシラはセクシーで行為に積極的な人だったし、あたしも、自制心がある人と思われたことは一度もなかった。当時、あたしは最悪の事態になったときのシナリオを頭に思い浮かべていた。それは、妻のレイチェルにバレること。ふたりは口論になる。そしてレイチェルが家を出ていき、それであたし自身は落ち込んでおしまいになると。それが恐ろしい結果であるのは確かだけど、理解できるケースだった。そして、そういうリスクを知りつつ、あたしは喜んでプリシラと付き合ったのだった。だけど、あたしは、人の心に巧みに入り込むプリシラの能力のことを計算に入れていなかった。自分自身が考えもしなかったことを人にさせる、あの能力。妙な魅力がある人なのだった。あたしならあり得ないと思うようなレベルのコントロールを実行できる人なのだった。
プリシラと付き合い始めてすぐに、彼女の強い求めで、あたしは体毛を剃るようになった。髪の毛も伸ばし始めた。次にお化粧。そしてダイエット。ホルモン。何が起きてるかちゃんと見えていた。自分がどんな姿に変わっていくのかちゃんと理解していた。だけど、やめられなかった。プリシラはあたしに指示を与えるだけなのに、あたしは、文句を言うことすらできなかった。というか、自分から、そうしたかった。そうしたい気持ちで切実だった。髪を染めたとき、仕事から解雇された。あたしが急に、しかもこんなに過激に変化し始めたことが理解できないと、友達もあたしから離れていった。あたしの家族もあたしが女性の服装を着始めたら、あたしと疎遠になっていった。
でも、それらすべて、特に問題とは思っていなかった。妻のレイチェルがいる限りは何でもなかった。彼女はあたしにとってすべてと言える存在。そのレイチェルが涙まじりに、もう我慢できないのと言ってきた時、離婚したいと言ってきた時、あたしはプリシラのもとに相談に行った。あたしたち夫婦の間に入って仲裁してほしいと頼んだ。プリシラの不思議な能力の源は分からないけど、レイチェルを元の気持ちに戻すことができる人と言えば、プリシラだろうと思ったのだった。プリシラがしぶしぶ同意してくれた時、あたしは嬉しさに死ぬかもと思ったほどだった。これでレイチェルとの夫婦生活は救われると。
そうはならなかった。むしろ、妻をあたしがいた地獄のような状況に引きずり込んだだけだった。それに、レイチェルもあたしと同じように、ほとんど、抵抗らしい抵抗を示さなかった。程なくして、あたしもレイチェルも、プリシラの事実上の奴隷になっていた。レイチェルもあたしも抵抗できなかった。プリシラに豊胸手術を受けるよう強く説得された時も、反論しようとする気も起きなかった。名前を変えるように言われた時も、同じだった。所有するすべての財産を彼女に委託するときも、あたしもレイチェルも、喜んでサインしていた。プリシラを喜ばそうと、互いに競い合っていたところもあった。
それがおおよそ1年前。その時から今まで、あたしは、そもそも男であるということはどういうことなのかを、ほぼ、忘れている。たいていは、それで問題ないし、思い出したいとも思っていない。むしろ、思い出せないといいのにと思っている。でも、なぜか、いつも、心の奥底にひとつの簡潔な思いが浮かんでる。それは、「すべてあたしのせい」という思い。「すべてあたしのせいで、それをあたしには決して変えることができない」という思い。