59_a_happy_accident
まだ1年もたっていないのに、彼はすでに自分の立場を受け入れている。お客たちのためにどんなふうに身づくろいするか見てほしい。彼が意味深に微笑む顔を見てほしい。彼は役割にすっかり没頭している。
私は彼にはここに来ることすら望まなかった。彼が来るなんて知らなかった。本当に。でも、私は自分が間違っていた時は、ちゃんとそれを認める人間だ。そんな臆病な人間ではない。そして、本当に、私は間違っていたのだった。
もともと、このオファーは彼女に対してのものだった。彼女は、ホステスに求めるすべてを有している人だった。美人で、セクシーで、仕事に簡単に適応できる人柄。……彼女こそ完璧の人だった。だが、その完璧さにはひとつだけ但し書きが必要だった。それは、彼女は彼女の彼氏から離れようとしないということである。彼女は使えないと却下しそうになった。もし彼女が理想形に少しでも足らないところがあったら、私たちも彼女を断っていたことだろう。だが、事実としては、私たちは彼女の要求をのんだのだった。彼は見えないところで行動し、誰にも見えないところで、誰もがやりたがらない仕事をするという計画で。
その計画は破綻した。彼らがここに来て、たった2日ほどで。私たちは、様々な妄想に対応できるという点で誇りを持っている。男性だろうが女性だろうが誰でも。痒いところに手が届く。それが私たちの誇りだった。私たちのパトロンのひとりが二人を見て、両方とも求めた。女と男のペアをして求めたのではない。女と男の娘のペアとして求めたのだった。
もちろん、彼は拒否した。自分は男であり、ゲイでもないと言って。しかし、私たちが、このリゾートで仕事を続けられるかどうかはお前の人脈によるんだと、くどいくらいに話したら、彼は調子を変え、いやいやながらも承諾したのだった。
それがおおよそ10カ月前のことである。それ以来、彼は過去を振り返ることはなくなった。例のパトロンは別のパトロンに置き換わり、さらに、その後、別の人に変わった。結局、クライアントの数は数十にまでになっている。彼としても、この変化を受け入れているようだ。ホルモンとかダイエットとかエクササイズとか……彼は完璧な男の娘になるよう(それが、私たちの一番の売り)、自分のわだかまりを克服したようである。
それでも彼は、自分たちがいつかすぐに元の生活に戻れると思っている。ここに来る前よりははるかに裕福になってだろうが、いつか戻れると思っているようだ。好調な時には目に見えないスポットがあるものだ。彼には戻ることはできないのが見えていないらしい。彼はこのリゾート地を出ることはできるだろうが、彼の生活は決して前と同じにはならないのである。