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自分の姿をじっと見つめる。こんな比較的短い時間に、よくここまで来たなあと我ながら感心する。男らしさの痕跡のほぼすべてが消えている。男性であることを示す最後の印が脚の間にぶら下がっているけど、それを無視すれば、あたしは女性を如実に示す姿を持つに至っている。そして、それこそ、あたしが最も恐怖を覚える点だ。
ここまでの道のりを進むに至る一連の決心や感情の波をたどることができる。気楽な道のりだった。最初は、親友と行った簡単な遊びだったけれど、すぐに、コントロールが効かない状態へと進展していった。初めてパンティを履いたとき、それは間抜けな遊びに過ぎなかった。セクシュアルなものとは思っていなかった。でも、パンティの生地に包まれ、自分のペニスが急速に勃起してくるのを感じ、以前なら自から進んで認めようとしなかったセクシュアリティの側面が自分にあると知ったのだった。
パンティを履く行為は、それ自体はバカげた、他意のないことなのだけど、あたしの心にある疑念を植え付けた。その疑念の大半は、自分はどんな人間なのか、そして、どんな人間になりたいのかという疑念だった。そして、突然、女性として生きる人生という夢。その夢があたしの思考を支配したのだった。毎日、女性のパンティを履くようになったのは、それから間もなくのことだった。心の奥では、これは一時的なものだと思っていた。しばらくは、この夢に耽溺するけど、これはいずれ薄れていくはず。そう自分に言い聞かせていた。
多分、あのウェブサイトを見なければ、いずれその通りに、薄れていたのだろうと思う。そのサイトは特別なところは何もなかった。いかがわしいサイトでは全くない。あたしのような、特殊なフェチの持ち主が出会うためのサイトだった。本当の自分に忠実に生きろと励ますことは、健全だと思うだろうけど、あたしにとっては……あたしにとっては、中毒的な効果をもつメッセージだった。メッセージで、あたしを誉め励ます言葉を受けるたびに、あたしはさらにいっそう、この道を進もうという気持ちになっていくのだった。
髪の毛を伸ばし始めた。運動をし、ダイエットをし始めた。それでは不十分だと思い、ホルモンを摂取し始めた。ウエストを引き締める特殊トレーニングも始めた。体が変化するにつれて、あたしをフォローする人たちも増えていった。そして、それはさらに女性化することを励ますことにしかつながらなかった。
それは不健全だと分かっている。自分は問題を抱えているのも分かっている。体を変えることは個人的な決心であるはず。……他の人の注目を浴びたり、承認してもらうことを必死に求めるという病的な精神状態としか考えられないことを満足させるための行為ではないはず。でも、そうは分かっていても、自分はやめなかったし、やめることもできなかった。こんな状態にまでなってしまったら、もはや、やめられない。