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A new position 

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「変身して調子はどうですか?」とメリッサが訊いた。

その返事を大声で叫んだりしない。リアムにはそれしかできなかった。だが、彼は、「レディっぽくない」態度を取ったらどんな結果が待ち受けているか知っている。当然、彼は薄笑いを浮かべ、「ええ、とても順調ですよ」と答えた。

「どんな名前を選んだの?」とメリッサ。

「り、リアです」

メリッサは頭を振った。「いや、いや、いや。それじゃあ、ダメでしょう。前の名前に近すぎですよ。近すぎると、すぐに脱落して、昔の習慣に戻っちゃうかもしれません。そうでしょう? そんな名前はダメ、受け付けませんよ」

「い、いえ、違うんです」とリアは、怒りを抑えこみながら答えた。なんだかんだ言っても、マスメディアの影響こそ、自分が元の世界を捨て、すべてをひっくり返した駆動力になっていたので、今の自分の状況をマスメディアに追及されるのは避けたかった。

「それでは、どんな名前がよろしいでしょうか?」

「そうね……えーっと……ビラとかは? ええ、それがいいわよ、ビラ!」とメリッサは言った。「なんか良い響きがあるんじゃない? それにあなたに似合っている。ええ、絶対、ビラね。いいわよね?」

リアムは頷き、これが新しい世間なのだと理解しようと努めた。たった2ヶ月ほど前、彼は世界最大の航空会社の社長でありCEOであった。そして今は、スチュワーデスとして初めてのフライトに行こうとしているところである。あのセクハラの訴えにあんな軽率な対応をしなければよかったのに……。

それはお笑い沙汰だったし、誰もがそう思っていた。それは復讐心に燃えた元妻が企んだ魔女狩りだった。それ以上でも、それ以下でもない。そして、その元妻が勝ったのである。なんだかんだ言っても、法廷は、妻に暴力をふるっていると噂される男性上位主義者の味方になるはずがない。そうだろう? 彼には、彼女の要求に黙って同意する以外、どんな選択肢があったと言えるだろうか? 結局、これは永遠に続くわけではない。2年か3年くらいだろう。その間、この屈辱に耐えれば、元の生活に戻れるのだ。完全に元の生活とは言えなくても、それに近い生活に。

「ビラは素敵な響きですね、奥様」と彼は、怒りが声に出ないよう注意しながら言った。「本当に素敵」

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[2017/11/03] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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