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「次にご紹介するのは、出場者ナンバー26番です!」とアナウンサーがマイクに向かって声を張り上げた。
「さあ、おいで、出番だよ」 とエスコート役の男がレオの手を引いた。
ステージへと向かいながら、レオは、男の手からさっと手をひっこめた。「その汚らしい手であたしに触らないでよ!」 外面的には、レオは落ち着き、気も張って、自信にあふれているように見える。だが、内面的には……彼の心の中では……その正反対であった。観客ひとりひとりの信じられなそうな眼差しに気が付いていたし、ひとりひとりの反応も見ていた。そして、彼らが集団としてどのような判断をしているのか、ひしひしと感じていた。ステージへのステップを登りながら、レオは観客たちが全員、何を考えているか自覚していた。あの復讐がなされなかったら、今頃、彼自身、同じことを考えていたことだろう。
「レア・マックヘイルをご紹介することは私の喜びであります」 とアナウンサーが言った。彼は安っぽくどぎつい柄のスーツを着ていた。うさん臭い中古車セールスマンのイメージがぴったりの男だった。「元の名前はレオ・マックヘイル。フロリダ州タンパの建設労働者でした。ご覧の通り、彼女は、このコンテストに全力を傾けてきたのであります」
アナウンサーがレオの女性化の状況を説明した(その話は、裏切りと不実という残酷なストーリーの手短な説明だった)。その説明がなされている間、レオはステージ上で、歩いて見せたり、振り向いたり、くるくる回って見せていた。それを見ながら、観客たちは、一様に、信じられなさそうな声を上げていた。レオは、元妻のコントロールからは逃れているが、いまだに彼女の影響から自由になっているわけではない。(ホルモン、催眠術、それにサブリミナルの条件付けなどにより)強制的に女体化された結果からは、死ぬまで逃れられないのである。
彼は、吐き気がするほど嫌ではあったのだが、自ら、無理強いして、この新しい人生を受け入れることにしてきた(他により良い選択肢がなかったせいもあるが)。その手段として、自分の状況を「売り」にして、いっそう自分を貶めるタイプの仕事を積極的に選び、行ってきたのである。だがそれは生きていく力を奪う生き方である。そんな力が尽きようとしていたとき、一筋の銀色に輝く希望がコンテストという形で姿を現したのだった(女性化した男性たちに特殊化したビューティ・コンテストである)。優勝すれば100万ドルの賞金が得られる。彼はためらわずに出場することに決心した。それだけのおカネがあれば、この完全に変身してしまった人生を変えることになるのは間違いない。
もし優勝したら、以前の友人たちや同僚たち、それに(悲しいことだが)家族たちから、偏見に満ちた目で見らることを耐える必要はなくなるだろう。彼らは、以前の彼のことを知っている。彼らは彼がどう変身してしまったか知っている。レオには新しい人生をいちからやり直すことが必要なのだ。
だが、まずは、コンテストに勝たなければならない。レオはセクシーに微笑んだ。くるりと体を回して見せた。眼差しで審査員たちを悩殺した。勝たねばならないのだ。どうしても。