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名声って恐ろしい薬物。どんな麻薬にも負けないほど中毒性があるし、どんな行為にも負けないほど習慣性がある。あたしのようにそれを味わったことがある人には……そうねえ、不思議な場所へと連れて行ってくれるモノ。それが生活の動機になっていくモノ。そして、最終的には人を破壊してしまう可能性があるモノ。あたしの場合はどうかって? 多分あたしは運がよかった。あたしの体を変えただけだから。
初めて名声ってのにかすったのは、あたしの人生の本当に、本当に初めの頃だった。思春期になる前にすでに、あたしは子役として確立していたし、ミュージシャンとしても芽が出始めていた。いろんな賞にノミネートされていたし、10代前のファンが大勢いたわ。
でも、可愛い子供の多くがそうであるように、あたしの場合も、思春期が始まると同時に、とんでもない邪魔があたしのスターとしてのキャリアに割り込んできたの。あたしはちゃんとした男に成長しなかったのよ。少なくとも、たいていの人はそう思ったようね。あたしのファンたちも大きくなっていくわけで。、それにつれて、好みも変わっていくでしょう? その結果、あたしは、そういう枠組みにうまく嵌らなくなっていったわけ。
あたしが有名になったのは、ソフトな外面だったんだけど、それを維持したら、うまくいったかしら? あたしの体が、男らしさによく結び付けられる筋肉隆々の逞しさに欠けていたことって、あたしが悪かったかしら? もちろん、違うわ。でも、だからと言って、あたしがそういう観点で判断される事実は変わらなかった。
みんながあたしのことを女の子みたいだと言うたびに、あたしの名声が少しずつ剥がされていって、あたしは、少しずつ、目立たない存在になっていった。役も回ってこないし、誰もあたしの音楽を聴きたがらない。それに雑誌からのお呼びもかからなくなっていった。それから間もなくして、あたしは、過去の人になっていた。
しばらくの間は、それはそれであたしは構わなかったのよ。なんだかんだ言っても、おカネはまだあったし、公共の場所に出かけても、パパラッチやキャーキャー叫ぶファンたちに追い掛け回されなくなったのは、気分が良い変化と言えたから。でも、いつからそう思うようになったか分からないけれど、結局は、昔の状態がないのが淋しいなって感じるようになったの。そして、今度は、その淋しいって気持ちが、深い落ち込みの気持ちに変わっていった。
そんな時、あたしはロジャー・イームズに出会ったわけ。今のあたしのエージェントね。そして、その時からあたしの人生は大きく変わった。彼はひとつの単純なメッセージを携えてあたしに近づいてきた。それはと言うと、自分の「欠点」を受け入れろってメッセージ。みんながあたしのことを女性的だと思うなら、それを強調しろ。女の子みたいだと言うなら、むしろそれを積極的に受け入れろ。
最初は、あたしは拒否したわ。本当に。そんなの狂った考えだって。あたしはどうしろっていうの、って。スカートを履いて、気取って歩く? でも、それから半月くらいのうちに、その考えを真面目に考え始めたの。そして、2ヶ月くらいするうちに、あたしは、彼が言うことに真剣に取り組むようになっていたわ。
そんなことで、これが、それから1年ちょっとした後の今のあたし。この姿になって初めての撮影のためにポーズをとっているところ。ホルモン、ダイエット、エクササイズ、それに整形手術のおかげでほとんど前の自分とは認識できないくらいになっている。でも、そこが重要な点だと思っているわ。あたしは昔のあたしとは同じ人間ではない。まあ、長い目で見ればだけど。
あたしにはマスコミ向けのストーリーは用意してあるわ(ジェンダーの同一性の問題で苦しんだとか……もちろん、全部、嘘だけど)。あたしにはこのカラダがある。そして、すぐに、あたしは有名になる。少なくとも、そうロジャーが言ってるわ。今は、彼が正しいといいなって願うだけ。