51_long_time_no_see
ライリーがドアにカギをかけるのを見てハリーが言った。「おい、お前。一体、何やってるんだよ?」
ラリーは微笑んで、ほっそりとした指で長く伸ばした黒髪を掻いた。「落ち着いて。そして、ちょっと黙ってて」
ライリーがだぶだぶのジーンズのボタンをはずし始める。ハリーは顔をしかめた。「いや、マジに。何やってるんだ?」
「5分だけちょうだい。いいよね? 5分したら、訊きたい質問を好きなだけしてくれていいから」
ハリーが子供のころからの一番の親友であるライリーに会うのは、ほぼ1年ぶりだった。ハリーは東海岸の大学に進み、ライリーはカリフォルニアにある大学の奨学金を得た。ふたりは、どの親友同士にも負けないほどの大親友ではあったが、どちらも、それぞれの好機を断ることはできなかった。そして、ふたりは実に重い気持ちを抱きつつ別々になったのだった。
確かにふたりは連絡を取り合っていたが、しばらくの間、実際に会うことはなかった。そして、共に2年生になった、この冬休みにようやく再会できたのである。……しかし、ライリーはすっかり変わっていた。ハリーはライリーと再会した瞬間、それをはっきりと見て取った。髪の毛は長くなり、かなり体重も減ったように見えた(もっとも、ライリーはバギータイプのだぶだぶの服装を好むので、明瞭には分からなかったが)。
ライリーは、何の前触れもなくいきなりジーンズを降ろした。だぶだぶのジーンズが彼の足元へと滑り落ちる。白いビキニのブリーフが露わになった。次にライリーは、黙ったまま指を赤いスウェット・シャツの裾にひっかけ、頭へと引っ張りあげ、脱いだ。その瞬間、ハリーはハッと息を飲んだ。親友の胸に本物としか見えない、はっきりと分かる乳房ができていたからだ。言葉を失ったままのハリーを尻目に、ライリーは衣服を脱ぎ続けた。ハリーは力が抜けたようにベッドに腰を降ろした。そして、友人の女性的な姿のわけを理解しようとしつつ、長い時間、見つめ続けた。
「何か言わないの?」 とライリーは不安そうに訊いた。
「ぼ、僕に何を言ってほしいんだ?」
「分からない。ただ、何か。何でもいいから」
「僕には……何も……なんて言うか……一体、何が?」 ハリーは頭を左右に振りながら、言いよどんだ。「一体、何が起きたんだ?」
「何かが起きた? 何も起きてないわ。僕は……あ、あたしは、ただ……ただ、嘘の生活をするのをやめたの。分かってほしい。本当に。あたしが西海岸に移ったとき、ハリーには分かってもらっていたと思っていた。あたしは、この土地から離れる必要があったのよ。どうしても……この土地にいる理解しない人たちみんなから離れる必要があったの。でも、ハリーなら……あなたなら分かってくれたはず」
「分かってくれた、って?」 とハリーは訊いた。「もちろん、今は分かったよ。でも、僕は考えてもいなかった……いや、知っていたよ……君が変わっているのは知っていた。君は隠していたけど、何か普通じゃないところがあるのは知っていたよ。何か隠していると。でも、思ってもいなかった……こういうことだとは、本当に全然、想像していなかった。どうして僕に言ってくれなかったんだ?」
「だって……だって、あたし……分からない?…あたし、怖かったから」とライリーは答えた。「あなたが何と言うか。あなたがどう反応するか。この世界の誰も理解しないとしても、あたしは構わない。でも、あなたには……あなたには分かってほしいの。理解してほしいの。これが今のあたし。ずっと前から、これがあたし。それに……あなたのことを……うーん……あたし、あなたのことが好きなの。いい? 友達として好きなんじゃなくて。あたしたち友達同士としても最高だとは思うけど。でも、何と言うか……もし、あなたに……あたしのことを見せられたらって……こういう姿のあたしのことをあなたに知ってもらえたらって……そう思ったから……」
ライリーは壁の方を向き、背中を見せた。「あたし、ただ……ごめんなさい。こんなことするんじゃなかった……」
ハリーはライリーに手をかけ、向き直らせ、親友の唇に唇を重ねた。熱のこもったキスだった。ようやくキスをほどいた後、ハリーは言った。「僕も君のことが好きだよ」