62_big plans
「彼は自分が誰だったか分かってるのか?」と、ライアンは、元友人であり元同僚の姿を見つめつつ、腕を組んで言った。「それとも、彼は他の人と同じく意識がない状態なのか?」
ヒュー博士は笑った。「彼は分かっていますよ。ただ、自分ではどうしようもできないだけです」
「じゃあ、それは進歩と言えるな」とライアンは視線を外さずに続けた。「条件付けは持続するのかな?」
ヒューは頷いた。「恒久的です。ライアン、目標にあと一歩まで来ています。本当にあと一歩まで」
「驚くべき進展だ。でも、まだ先は長いぞ。彼らが自分たちがどうして変わってしまったのかを知っても、我々には何の利点もない。彼らが自分の考えでこうしてると思えるようになっていなければいけないんだから」
「そうなりますよ」とヒューは請け合い、メモ帳に何か記した。「完成の暁には、誰も、我々の被検者と本物との区別がつかなくなるでしょう。お約束します。あと一歩なのです」
ライアンは返事をしなかった。返事をする代わりに、最終的に自分の目的を達成した時の可能性について考えていた。誰かを完全に変えることができるという可能性。ジェンダーについての自己意識と性的志向を変える可能性。それは、あっと驚くべきことになるだろう。最大級のゲーム・チェンジャーになるだろう。
それに彼は、そのパワーが安定的に発揮できるとなったときに、それをどういうふうに使うかもしっかり知っていた。アメリカだけに限っても、何百万とは言わないが、何千人もの偏見差別主義者がいる。そういう差別主義者たちが、突然、自分があれほど嫌悪する人間になったとしたら、彼らの態度はどう変わるだろうか? そうなったときこそ、アメリカという国は分断から団結へと変われるのかもしれない。そうなったときこそ、誰もが自分の能力を最大限に発揮できるようになるのかもしれない。
「博士、もっと進展が見られたら教えてくれ。君がこのプロセスを完成させる瞬間を知りたい。私は、このプログラムについて、大いなる計画を持っているのだ。大いなる計画を」