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Codependence 

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事実関係は分かっている。あの出来事を、まるで昨日の出来事のように思い出せる。あたしが心から納得できないでいるのは、どうして、その出来事が起こるのをあたしは許してしまったのかということ。どうして抵抗しなかったのか? どうして逃げなかったのか? どうして文句を言わなかったのか?

恐怖からだろうか? 確かに、そう考えると理屈が通る。姉が死んだとき、母は、たったひとり残った子供に、死んだ姉を結び付けた。母はそうせざるを得なかったのだろう。ジェシカを失ったことは、母にとってそれほど辛いことだったのだ。そして、あたしも母を助けたかった。母のために、母が望む形でそばにいてあげたいと思った。だから、母が、あたしに姉の服を着てほしいと言ったとき、あたしは素直にその求めに応じた。そして、それは実際、良い効果をもたらした。それから2ヶ月ほどの間、ジェシカの服を着たあたしをじっと見つめる母は、その時だけは、以前の母を取り戻したように見えたのだった。でも、あたしが元の自分、すなわち、母にとっては、冴えない退屈な息子に戻るとすぐに、母はまた元の状態に後退してしまうのだった。

あたしは、心が引き裂かれる気持ちだった。母のことはとても愛している、だから、母には、本当に、心から、幸せになってほしいと思っていた。どうすれば母は幸せな気持ちでいられるか、それははっきりしていた。そして、あたしは、はたから見れば気が狂ってるとしか見えないだろうけれど、その方法を受け入れることに決めたのだった。それから間もなく、あたしは、家にいるときは、母の可愛い娘になっていた。服装の選び方、お化粧の仕方、髪の毛のまとめ方、そしてダンスの仕方などを学んだ。母は、丁寧にあたしに教えてくれた。でも、一度も、あたしが本当は息子であることは口に出さなかった。

思春期になり、問題が生じた。その頃までには、あたしも思春期がどういう事態をもたらすか理解できるようになっていた。もし、このまま思春期を迎えたら、母の可愛い娘でい続けることはできないと。ジェシカ姉さんが死んでから2年以上たっていたけれど、あたしは、母が、また、ぶり返すことを死ぬほど恐れていた。男の子に戻ったら、母にとっては、またも、娘を亡くすことになるだろう。だから、あたしはネットに接続した。ホルモン治療の予約を入れるために。

一線を越えているという自覚はあった。それに、後戻りはできなくなることも知っていた。でも、どうしても母を幸せにしたかった。どうしても。なので、ホルモンを飲み始めた。そして、その時から、あたしは他の女の子と同じような体に成長したのだった。

あたし自身はそれで良いと思っていた。本気でそう思っていた。そもそも、本当の意味での男らしさというものを知らずに育ったわけで、大きなロスは感じなかった。女性的な人格で十分、居心地がよかったし、母が幸せである限り、自分も幸せでいられた。だけど、他の男の子のことを知ると、いや、むしろ、他の男子たちがあたしのことを知ると、あたしを取り巻く世界が一変し、混沌状態になってしまった。

高校時代、あたしは、母が極度に厳しい人だからと言って、かたくなにデートを避け続けた。それはそれでうまくいった。女子の中には両親が同じくらい厳しいルールを課する人もいたから。でも、そう言い続けることによって、実際に男子とデートをしなければならない局面から逃げることができていたとしても、男子の方はそうはいかなかった。実際のデートは拒み続けていても、だからと言って男子から何かとちょっかいを出されることは避けられなかった。

高校を卒業したばかりの頃、母はまた別の問題を出してきた。母の友人の息子ジャックをあたしに紹介したのである。彼の場合だと、あたしは母が厳しいからと言う言い逃れはできなかった。母からの紹介なわけだから、あたしがジャックとデートすることに母が反対するわけがないはずで、母のことを言い訳に使うことができないのだった。それに、いくら、彼とのデートを断ろうとしても、いずれは、言い訳の理由が底をついてしまうだろうと思った。彼と最初のデートをした。デートの間、あたしはずっと上の空でいる演技をしたし、彼に送られ家に戻るときも、彼が玄関先まで来ないようにするための理由を考え続けたのだけど、結局、家まで送られ、彼と一緒に玄関に出た。あたしたちを出迎えたときの、母の嬉しそうな顔はなかった。あんなに幸せそうな母の顔は見たことがなかった。

どうしてもやめることができなかった。とりわけ、彼とデートすることによって、母があれほど幸せそうになるのだと知ると、なおさらだった。そういうわけで、あたしはジャックとデートを続け、1年後、彼があたしにプロポーズした時、あたしは「イエス」と返事した。拒み切れなかった。もし拒んだら、母はそのショックを耐えきれなかっただろうと思う。それにあたしもジャックとなら悪くはならないだろうとも思っていた。彼は、将来は医者になろうとしているハンサムな青年で、優しい人だったし、何より、あたしの秘密を知っていた。彼より良い将来の夫は見つからないだろうと思った。

そんなわけで、あたしは彼と結婚した。結婚式自体はとても素晴らしかった。母はあたし以上に式を喜んでいた。ウエディングドレスを着て立つあたしを見る母の目。その母の顔を見ただけでも、こうして結婚式を挙げられてよかったと思った。あの母の顔を見て、あたしは正しい選択をしたのだと自信を持つことができた。

でも、今、こうして横たわってジャックが来るのを待っていると、自分でもどうして母の望むとおりにさせてきたのだろうと不思議に思うところがある。これまでの人生ずっと、あたしは死んだ姉の代わりを演じることに費やしてきた。母が少しでも正気な状態でいられるようにと、あたしは女の子であるフリをし続けてきた。この状態にがんじがらめになっているとも言える。でも、もはや引き返せない。これが今のあたしの姿なのだから。あたしにできることは、できるだけ最高の妻になるよう努力すること。今は彼を幸せにする、それを頑張るほかない。

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[2017/12/05] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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