62_Confusion
「お前が誰だろうが、俺にはどうでもいい」 ビーチで男が怒鳴った。「お前が俺の邪魔をするなら、後悔することになるだろうよ。いいから、俺の息子がどこにいるか教えるんだ!」
カウンセラーは、どうしてよいかわからず、ためらった。そもそも、この男がどうしてこのリゾートにやって来たのかからして謎だった。「ちょっと落ち着いてください」と彼は、降参するように両手を宙に掲げて言った。「私のあとについて来てくれたら、すべてがはっきり理解できると思いますから」
「理解できるだと?」 男は苛立ち、叫んだ。「俺をバカにしてるのか? 俺の息子は、俺の元妻に、この忌々しい女性化キャンプに送り込まれちまったんだぞ! なのに落ち着けだと? 俺の知るところでは、お前たちはすでに息子をオカマみたいなのに変えてしまったそうじゃないか! もう、手をこまねいているわけにはいかんのだ。さっさと俺を案内しろ!」
「お、お父さん?」 海から現れた人物が彼に声をかけた。彼女は素っ裸だった。豊かな乳房を誇り、ただ一つ、脚の間に残る男性性の名残を除いては、完ぺきに女性的な身体をしている。「ここで何をしているの? どうして、デイさんに怒鳴っているの?」
「コ、コーリーなのか? な、何てことだ。ありえない。コーリーなのか? あいつら、お前に何をしたんだ?」
「あたしに何かした? 誰も何もしてないわ。あたしが自分で望んだことなのよ」
とコーリーは海の水滴を体から滴らせながら言った。
「そんなはずはない」とコーリーの父は言った。息子が近づくのに合わせて、その声は前より和らいでいた。「お前はちょっと頭の中が混乱しているだけなんだ。あいつらに洗脳されてしまったから。今のその姿は、本当のお前ではないよ。お前であるはずがない。お父さんと一緒に帰ろう。帰ったら全部元通りに直そう。お父さんは、いくらかかっても気にしないよ。一緒に元に戻すんだ……」
「直す? お父さん、冗談言ってるの? このカラダを手に入れるのに、一年近くかかったんだから。お父さんに無理強いされてジム通いしたけど、その時についたゴツゴツした筋肉を落とすの、どれだけ大変だったか。『直す』なんて絶対にイヤだからね、お父さん」
「な、何を言ってるんだ。理解できん……」
「理解しなくちゃいけないことって何? あたしは女の子。ずっと前から女の子なりたいと思ってきたの。あたしがずっと反抗的な行動をとってきたのも、それが理由。イジメをするとか、学校をサボるとか、わざと男尊女卑の態度をとるとか、ドラッグに手を出すとか。あたしは救いを求めて叫び声をあげていたのよ。そして、ママは、そのあたしの声を聴いてくれて、あたしを助けるためにここに送り込んでくれたの。そして、本当にうまくいったわ。だから、もし、お父さんが、昔のあたしのような人間を忘れられないのなら、お父さんはここから去る必要があるわ。あたしの人生には、そういうネガティブな考え方を受け入れる余裕はないから」
「だけど……」
「だけどはナシ。単純なことよ。お父さんが、今のあたしの姿を受け入れることができるか、できないか、それだけ」
「わ……分からない。本当に分からないんだ」
「じゃあ、分かったとき、また、ここに戻ってきて」