
62_disbelief
彼がプールから上がってきた時、僕は彼が自分の兄だとすら気づかなかった。ひどい言い方だと思うけれど、これだけ変わってしまったのだから、こんな言い方、悪いことだとは思うけれど、理解できることだと思う。
「ポール、元気?」 と兄は僕に声をかけた。女性的な裸を晒していることを恥ずかしがることもしないようだった。大きな乳房が揺れていた。彼は、男性とは無縁のあらゆる曲線の集合体と言えるような体をしていた。長い赤髪が濡れた重さで細り、体にまとわりついている。彼の顔すら、かつて僕が知っていた顔とはほとんど似ていなかった。以前よりずっと柔和で、丸みを帯び、そして女性的な顔になっていた。
自分で言うのも恥ずかしいが、僕は兄の姿に目をくぎ付けにされていた。突然、僕の背後から女性の笑い声が聞こえた。僕の様子に思わず笑ってしまったような声だった。「この人、新しいあなたのことが気に入ったみたいね」
僕は素早く振り返った。恥ずかしさに頬が赤くなっていたと思う。兄の姿を見て思った事柄は、決して僕の本心ではない。けれども、その思いはなかなか頭の中から消えなかった。それがとても不快だった。
僕の背後にいた女性は、僕の義理の姉のカイリーだった。カイリーは馴れ馴れしく僕の肩に触れた。僕は肩を揺すり、その手を振り払った。すべて、この女のせいだ。この女が兄に何かをしたんだ。兄に無理強いして、この姿にさせたのだ。どういう方法か分からないが、兄を女の姿に変えてしまったんだ。そう思ったし、僕の兄は、事実上、姿を消してしまい、その代わりに、その曲線美にこれから何ヶ月も僕は悩まされることになる女性化した肉体を持った別の人が兄に取って代わったのだとも思った。
「あ、兄に何をしたんだ?」 僕は小声で囁いた。幸い、兄は少し離れていて、僕の声は聞こえていない。
「何をしたって?」 とカイリーは訊き返した。彼女の方を向くまでもなく、彼女が顔に自己満足しきった笑みを浮かべているのが分かる。「彼には何もしていないわよ。ただ、彼がどうなったら私が嬉しいかを教えてあげて、それを達成する手段を与えただけ。こうなるように決めたのは彼自身よ」
「そんなの信じない」 と僕はつぶやいた。僕のつぶやきが彼女に聞こえていたかは分からない。それほど小さな声で呟いていたから。兄とは1年しか歳の差がなかったけれど、僕はいつも兄を尊敬していた。ずっと、兄のようになりたいと思っていた。賢くて、格好よい。スポーツマンタイプではないけれど、兄は昔から人気者だった。
カイリーが僕の背中に体を近づけ、耳に顔を寄せ、囁いた。「信じようと信じまいと、これが今の彼。この方がずっと素敵だと思わない?」