「あらまあ・・・」
ちょっと間があった。
「実は、私も少し億劫なのよ。ボブが、私の誕生日に、この『グラマー写真』って言うの? これをさせてくれたのは知ってるわよね? で、私、これでも頑張ったの。本当に頑張ったわ。でも、その時の人が気持ち悪い感じの真面目すぎの人だったのよ。ただ『セクシーになって、セクシーに』って、それしか言わなくて、私、かえって、ものすごく緊張してしまったの。やっと撮影が終わった時には、もう、一刻も早くその場から逃げたくなってて。あの時の写真にボブががっかりしてるのは知ってるわ。それに正直、私も同じなの」
うへえ~、プレッシャーの話だよ。僕がこのポートレート撮影にどんだけ自信がないか、クリスタルは知ってるのだろうか? 知らなかったとしても、彼女の言葉でさらにプレッシャーの追い討ちをかけられてしまった。
「その人、ほんとにすごく気持ち悪い人だったのよ。でも、あなたは少なくともそんな人じゃないわ」
「うわー、ありがとう」 皮肉混じりの声が出てた。
クリスタルは、僕の声のニュアンスを察知した。
「あ、いや、違うの。あなたは素敵な人よ。嫌いじゃないの。でも、その時の男は・・・えっと、そのお、何と言ったらよいか・・・とてもじゃないけど、あの人の前でセクシーになんかなれなかったわ。ゲエーって感じ。うう、思い出しただけで身の毛がよだってくる。ともかく、私、あなたの前でちゃんとできるか自信がないのよ。できるだけのことは喜んでするつもりだけど」
それから何分か話を続けた。僕は、クリスタルに、したくないことは一切させないと安心させた。クリスタルの方も、本気で頑張ってみると言ってくれた。時間と場所は、今度の金曜の夜、僕の家でということに決めた。それから、電話をボブに変わってくれと頼んだ。
ボブには、日取りを金曜の夜にしたことを伝えた。それから、撮影の時には、ボブにも一緒に来てもらって、クリスタルをリラックスさせるのを手伝って欲しいと頼んだ。
「そうした方がさ、どういう写真が欲しいか俺に伝えられるわけだし、俺の方も、あてずっぽうに無駄に何枚も写真を撮るよりも、君の期待に沿った写真を撮れる可能性が高いと思うんだ」
「そうだな。そいつはいいアイデアだ」
金曜の夜になった。ボブとクリスタルは、9時ごろ、玄関に現れた。もう1時間くらい前に来るんじゃないかと思っていたんだけど、まあ、8時だろうが9時だろうが、大きな違いはなかった。どっちにせよ、その日は他に何も予定がなかったから。
クリスタルはスポーツバッグを持っていた。明らかに、中に着替えの服を入れてきたのだろう。少なくとも、そうだったらいいなと思った。と言うのも、その日のクリスタルの格好は、暗い色のブラウスで、ボタンがあごまでぴっちり締めていたし、下はバギーパンツで、膝まで隠れていたから。とてもじゃないが、グラマー写真向きなんて言えない。ボブが横から顔を出し、ワインを1本振って見せた。いいアイデアだと思った。正直、僕自身、1本冷やしていたのである。ワインがあればクリスタルをリラックスさせられるだろうし、何より、僕の方も緊張が解ける。