
62_leaving a little
「あたし、このふたりのことがとても誇らしいわ」 とトリッシュは、バーベキューをしている女性化した若い裸の男たちを見つめながら言った。「こんなに早く、こんなレベルまで達するなんて思ってもみなかったわ」
「あなた、ふたりのことを誇りに思っているの? それとも、あたしたちがふたりにしたことを誇りに思っているの? それって、大きな違いよ?」 とベッキーが言った。
トリッシュは肩をすくめた。「その両方って言っちゃいけない?」
「正確には違うわ。ふたりは、自分の体を変えられるというのに、事実上、一言もイヤだと言わなかったのよ? だったら、どうしてふたりを誇りに思えるかしら? 結果については誇りに思ってもいいけれど、ふたりを誇りに思うのは、誇りの気持ちを向ける先を完全に間違っているんじゃない?」
「でも、それって関係あるかしら? 結果は同じなんだし。以前のあたしたちには、性差別主義者の同僚がふたりいた。それが今、あたしたちには、完全に行儀のよいスレイブがふたりいる。その点を除けば、他のことは全部、意味論の問題じゃない?」
「まあ、確かにそうね」とベッキーは譲歩した。そして、少し間をおいて彼女は尋ねた。「ひょっとして後悔していない?」
「もちろん、後悔なんかしていないわ」 とトリッシュは即答した。「あのふたり、本当にひどかったもの。あのふたりがあたしたちのアイデアを自分たちの手柄にしたことが、いったい何回あったことか。あっちにいるトニーなんか、あなたのことを自分の秘書だと思い込んでいたじゃない? しかも、それが間違いだって気づいたのが、2週間も経ってからだったわ。だから、後悔なんかしていない。ふたりがこういう姿になったおかげで、世の中が良くなったもの」
「でも、あたしたち、ふたりから何もかも奪っちゃったわよね……」
「その代わり、ふたりには新しい考え方を与えたわ。それに幸せにもしてあげた。ふたりは、今の状態を本当に気に入ってるもの」
「そういうふうに思うように、あたしたちが仕向けたからでしょ? 今のふたりには、昔のふたりにあったものがほとんどなくなっている。全部、人工的なものになってる」
「全部じゃないわ」とトリッシュが言った。「今のようにバーベキューに夢中になっているところ、あれは前のふたりから残った点じゃない? 少なくとも、あの夢中度は大したもんだわ」
「確かにね」 とベッキーは皮肉っぽい声の調子で答えた。「あたしたち、ふたりを完全に女性化したけれど、バーベキュー愛だけは残してあげた。本当に素晴らしい交換条件と言えるわね」
「良かった」 とトリッシュはベッキーの皮肉を無視して答えた。「あなたとは意見が完全一致してて、あたし嬉しいわ」