
62_reunion
「こういうことが恥ずかしいことみたいに感じながら生きるのは、もうやめるべきだと思うの」 とハリーが言った。「あたしはあなたを愛しているし、あなたもあたしを愛している。重要なことはそれだけだと思うの」
「子供みたいなことを言わないで」とエリンは自分の衣装ダンスを引っかきまわしながら言った。「あなたはみんなに知ってほしいと言うけれど、でも、この種のことは、人々の中の最悪の部分を引っ張り出すことになるのよ。もし、みんなが知ったら……」
ふたりはこの手の話し合いを前にもしていた。しかも、何度も。ふたりとも、それぞれがずっと前から抱いてきた自分の考えを翻そうとはしなかった。
「みんな、あなたが思っているよりも、支持してくれると思うのよ。みんな、あたしたちのことを子供の頃から知っている人ばかりだわ。何と言うか、つまり、確かに、あたしたち変わったわ。それは確か。だけど、人生って、そもそもそういうもんじゃない? みんな、あたしたちのことを喜んでくれると思うの」
エリンは頭を左右に振った。どうして、ハリーはこんなに純真でいられるんだろうと、不思議でならなかった。ハリーは、人間は最悪になるときがあるという事実を信ずることをかたくなに拒む。その事実こそ、エリン自身が変身を始めた瞬間からイヤと言うほど体験してきた事実だった。これまで耐え忍び続けてきた人々の憎悪。その憎悪の激しさゆえに、エリンにとっては、万事をシニカルに見ることが、普通のことになっていた。
エリンはハリーの方に向き直り、自分自身の男性性を示す最後の印を指さした。「みんな、コレ以外の物に意識を集中できなくなるでしょうね。そして、あたしがどういう人間かを決めつけてくる。そこから拡大して、あなたのことも決めつけてくる。みんな、どうしても、そういう考え方をすることになるのよ」
「だから、どうしたと言うの?」 とハリーは尋ねた。「行きたくないだけじゃないの? 10年目の同窓会なのよ、エリン。行かなくちゃいけないわ」
「本当は行きたくないの。あの人たちがあたしについて何て言うか、あたしが気にするとでも思ってるの? あたしは気にしないわ。あたしは、あの人たちがあたしに投げつけてくる言葉や態度なんかより、ずっとひどいことを経験してきているの。あたしが心配しているのは、あなたのことなのよ、バカね。あの人たちがあなたについて何と言うか、ちょっと立ち止まって考えてみた? あの人たちがどんな反応すると思う? あんなたは、あの学校では王様だったのよ、ハリー。あなたはチアリーダーたちとデートしてた。女子は全員あなたと付き合いたがっていたし、男子は全員あなたのような毎日を過ごせたらいいなって憧れていたのよ」
「ええ、でも、だから?」
「それが今あなたは、みんながゲイだとみなしていた学校一番の気持ち悪い男子だった人と一緒になっているわけでしょ? 誰も理解なんかしてくれっこないわ」
「あたしたち、以前のあたしたちじゃないの。あなたも、あたしも、あの人たちも。みんな、前と同じな人は誰もいないの。それに、あたしのことは心配しないで。あたしは、あなたのことを誇らしく思っているんだから。今のあたしは、他の誰よりも幸せなの。それに、もし、あたしたちのことをおかしいと思う人がいたら、そんな人、直ちに地獄に落ちて当然よ」
「そう言うのは簡単だわ。でも……」
「でもも何もないわ。あなたはとても綺麗で、あたしはあなたを愛している。それ以外のことは、ただの、雑音。だから、同窓会に行きましょう。きっと楽しいはず。それに、この同窓会はあたしたちふたりにとってもきっと良い結果になると思っているの」
エリンはため息をついた。この議論には決して勝てないと思った。「いいわ。でも、あたしが忠告したってことだけは忘れないでね」