
64_a different world 「異なる世界」
「ケイシー、行くわよ」 僕のテントの入り口にふたりの姿が現れた。「遅くなるわ」
僕は、ぼんやりした意識を振り払おうと頭を振った。僕はこのふたりを知っている。それは確かだ。だが、ふたりを見ていると、意識がぼんやりしてくる。ふたりについて、何も詳しいことを思い出せないのだ。僕たちはずっとずっと昔から知り合いだったという漠然とした感覚しか出てこない。
そして、僕はアレに気が付いた。
僕が驚いたのは、ふたりが裸でいることではなかった。いや、裸でいることは、僕にとってそれほどアブノーマルなこととは思わなかった。実際、僕は子供の頃から、何も服を着ずに自然の中を歩き回るのが好きだったし、大人になってからは、文化のひとつとしてのヌーディズムに惹かれてきたのも事実だ。別にヌーディズムに僕の人生を支配されるほどのことではないが、休暇で自然の中に来るときは、服を着ることの方が少ない。
だが、彷徨うように視線を僕の「友人たち」の陰部へと向け、僕は大きな驚きに襲われた。
「な、何なんだ……」と僕はつぶやいた。怪訝の気持ちを声に出すことすらできなかった。目の前にいるふたりは、典型的な男女のカップルだ。しかし、ふたりの股間についてとなると大きな混乱があるように見えた。バギナがあるべきところにペニスがあり、ペニスがあるべきところにバギナがある。
「君が昨夜、目をつけていた女の子が来てると思うよ」と女性(あるいは男性?)が言った。「それに彼女、今回は愛用のストラップオンを持ってくるらしい」
「な、何だって……」同じ言葉を繰り返していた。何も言えない。その時、自分の胸に奇妙な重さを感じた。すぐに僕は両手を出して、自分の胸を押さえた。大きな乳房ができていた。「ぼ、僕に……おっぱいができている」
「それ、とてもいい形ね」と男性が言った。「自慢すべきよ。さあ……」
「でも、おっぱいがあるんだ。それに……」
「私にもあるよ」と女性が言った(男性なのかもしれない。僕はふたりをどう呼んでよいか分からなくなっていた)。「それに世界中、どの男にもついている。そんなに特別なことじゃないよ」
「ぼ、僕は……」
何と言ってよいか分からなかった。何をどうすべきかも。分かっていたのは、もし今、鏡を見たら、いつも見慣れている男性の肉体を見ることはないだろうという点だけ。何か女性的な、曲線が豊富な体を見ることになるだろうということだけ。
「一体、ここはどこだ?」 と僕はつぶやいた。