
64_A real girl 「本物の女の子」
「わーお!」 とエリックが言った。「何て言うか…わーおだよ。君がスーツの下にこんなのを隠していただなんて、想像もできなかった」
「誰にも言っちゃだめよ」とライリーは答えた。「分かった? 大丈夫? さもないと……」
「もちろん、誰にも言わないよ。でも……ちょっと聞いてくれ。多分、俺には全然関係ないことなんだろうけど、いったいなぜ? なぜ、普通にしなかった? なぜ、そのまま、やってしまわなかった?」
「本気で言ってるの? 2時間くらい前にあたしを見たときに、自分がどんなことをしたか考えてみてよ。あなた、ホテルのバーの真ん中で大騒ぎをしそうになっていたのよ」
「いや、そのつもりはなかったんだけど……」
「あたしを辱めようとしていたわけじゃないのは分かってるわ。でも、結果的に、あなたはそうしてたの。それに、あなたはあたしの親友なわけだし。職場の人たちが何と言うか考えてみて? あたしのことを嫌ってる人たちが何と言うか、考えてみて? あたしの仕事を狙ってる人のことを考えてみて? あたし、破滅しちゃいうじゃない、エリック。あなたは、それが分かってるはずなのに」
「でも、君は、とても、素敵だし。大丈夫だよ、誰も気にしないって。君はまさに……何と言うか…」
「本物の女の子に見える、でしょ?」 とライリーが答えた。「そう言いたかったんでしょう? あたしは本物の女の子なの。ちょっとだけ余分なものがくっついて生まれただけ。そこのところが、あなたが全然分かっていないところなのよ。その点こそ、誰も理解したいと思わないところなのよ」
「でも……」
「あなたがそのつもりで言ってるんじゃないのは分かってる。でも、それって傷つくの。何が言いたいっかっていうとね、こういう出張の機会。あたしにはこれだけなのよ。1ヶ月に2夜だけ、その時だけ、あたしは本当のあたしになれるの。トーリもいないし、友達もいない、ただあたしだけ。本当のあたしになったあたしだけ、なの。なのに、そんなところで、あなたがいきなりバーに入ってきた。そして、こともあろうか、あたしに言い寄ってくどき始めた。あなた、あたしが誰かすら分からなかったわよね、エリック」
「じっくり見たら分かったけど」
「ええ、知ってるわ。でも、ちょっとだけ、あたしは別の現実世界にいるように思ったの。分からない? あたしがごく普通の女の子になっている世界。どこにそんな世界が……」
「そういうわけで君は僕を誘って、ここに連れて来たんだね? そういうわけで君は素っ裸で僕の前に立っているんだね? そうだろ?」
ライリーは笑いながら肩をすくめた。「だとしたら、何なの?」
エリックは前に進んだ。「僕に関する限り」すでにライリーから数センチのところに来ていた。「今夜は、君は、僕がバーで引っかけた女の子に過ぎないんだが。君がそれでオーケーならの話しだけど」
ライリーは彼の胸にもたれ、囁いた。「オーケー以上よ」