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64_Be careful what you wish for 「何を願うか注意せよ」
「さあ、ポーズを決めてもらおうか」 ご主人様が言った。この人のことをご主人様と言うのは嫌なのだけど、彼を呼ぶための他の名前を知らなかった。それに、いずれにせよ、その呼び方は適切だった。そもそも、彼に従わないことなんて想像すらできない。これは明らかに彼が私の精神をいじった結果だろうけど。
私は、同じ囚われ仲間と一緒に並んで床に座り、体を後ろに傾けた。両肘で体を支え、両脚を広げる。その私たちを見て、ご主人様がめったに見せない笑顔を見せたのを見て、私は報われた気持ちになった。私も、どうしても笑顔を返してしまう。彼を喜ばすこと、それは私自身を喜ばすことよりも、嬉しいことになっている。
ご主人様は椅子のひとつに腰を下ろし、何か思い悩んでいるような顔で顎髭を撫でた。「私は気づいたよ。これは無意味だな。何もかもだ。お前たちのどちらも自分が誰か分かっていないだろう? この方が、お前たちをコントロールしやすいから良いだろうと思ったのだが。もちろん、コントロールの点に関しては私は正しかった。今、お前たちにお前たちの道具を返してやっても、お前たち、その使い方すら分からないだろう」
「ご主人様、私たち、何かご機嫌を損ねることをしておりますでしょうか?」と隣の囚われ人が尋ねた。彼女の名前は知らないが、彼女も私と同じなのは分かっていた。つまり、自分の意思に反して女体化された囚われ人。彼女の方が年上なのは確か。でも、私と彼女は同じ運命にあるという点で親近感があった。
「いや」と彼は手を振って否定した。そして、スキンヘッドの頭を撫でた後、話をつづけた。「お前たちは、自分が誰か知るべき時が来たと思う。お前たちふたりともだ」
私は息を飲んだ。知りたかった。だけど、答えを知るのがとても怖かった。必死に求めていたけれど、あまりに無力で知り得なかった答え。
「お前!」とご主人様は年上の囚われ人を指さした。「お前は伝説だ。いや、伝説だったと言うべきか。お前こそ、これを始めた者たちのひとりだ。この自警の文化をな。お前は無数の犯罪者たちを捕らえ、世界規模のプロットをふたつも潰した」
彼は立ち上がった。「みんなお前はすでに死んだと思っている。お前の仲間の英雄たち全員、そう思っている。実際、お前は死んだも同然だが。お前は、お前がかつて用いていたあの素晴らしいおもちゃも、今は使い方すら分からないだろう。だが、お前は、お前の仕事がすべて無効にされてきているのを知るべきだな。お前が駆除した犯罪者たちはどうなったか? 全員、罪を逃れたよ。いま彼らは、お前が街と呼んでいた汚水溜めを、事実上、仕切っている」
彼は次に私に目を向けた。「ああ、そして、その子分。か弱いはぐれ鳥。彼はお前を自分の翼の中に引き入れ、お前は自分から犯罪と戦う恐るべき戦士になって、彼の庇護に答えた。だが、お前は最初から弱味でもあったのだ。彼か? 彼はほぼ攻撃不可能。巨人であり神。アンタッチャブル。確かに彼に傷を負わせたり、殺すことも可能だったが、その精神力の強さが抜きんでていた。その精神力のおかげで、彼は、誰にも、宇宙人ですら敵わない強さを得ていた。彼の唯一の弱点はお前だったのだよ、小鳥のお前。お前こそが彼の失脚の原因になったのだ」
彼はしばらく黙りこくり、その後、話をつづけた。「今の自分たちの姿を見てみろ。バットマンとロビン、ゴッサムの庇護者。それが今は性奴隷になっている。お前の執事ですら今のお前たちを認識できるか、それすら疑わしい。そしてここにいる私はと言うと、涙が出るほど退屈している。争いごとはなくなってしまった。抵抗もない。お前たちはふたりとも破滅した。そして今の私は、次に何をしてよいか分からず途方に暮れているのだよ」