もっともスティーブは義父の意見に賛成ではあった。キンバリーは6月に高校を卒業したばかりである。彼女の成績はあまり良くなかった。そこで、大学での勉学に備えるため、短期のセミナー形式の授業に通っているのである。キンバリーは濃い茶の髪の美人だった。一緒にいると楽しく、度が過ぎるほど社交的な性格である。高校では3年間通してチアリーダー部に属し、好ましい社交グループのすべてに参加していた。だが、この1月に18歳になったばかりであり、ちょっと気まぐれな傾向もあった。ロイドと同じ立場だったら、スティーブも、そんな彼女を、ここでの話し合いに加わらせなかっただろう。
バーバラと彼女の両親はカウチに座った。リディアは2人掛けのソファに座り、心地良さそうに脚を組んだ。スティーブが見ているのを見て、いたずらっぽい笑みを見せる。スティーブは以前、リディアに、67歳の女性では一番美しい脚をしていると言ったことがあり、リディアはその言葉を忘れていなかったのである。彼女は、脚を組みなおし、ふかふかのクッションの上、リラックスした。
スティーブは安楽椅子(
参考)に座ることにし、椅子の向きをカウチに座る3人に対面するように直した。腰を降ろして相手の出方を待つ。
スティーブはバーバラの様子を見た。バーバラは、スティーブの視線を感じているのか、左右、わずかに体の向きを変えていた。スティーブは彼女を見ながら、一体、この女性は何者なのだろうと思っていた。彼女とは、2年間、断続的にデートを続けた後、結婚した。しかし、その2年間も、2人が専属的にデートするかどうかで口論になった後、ほぼ半年ほど、半ば無為に過ごして、分断されている。結婚してから4年になっていたから、通算して6年間、この女性のことを知ってきたことになる。いや、正確にはそうは言えない。この女性のことは知らないのだ。そもそも、彼女がなぜ夫婦生活を裏切ったのか、その手がかりすら知らないではないか。結局、自分はこの女性をまったく知らないのだとスティーブは判断した。
今度は、彼女のことをたった今、出会ったばかりの見ず知らずの女性として見ようとしながら、詳しく見てみることにした。この女性は魅力的である。これまでも魅力的だったが、特に、この2年ほどのうちに、背が高く、すらりと優美な体つきに変わってきたように思われる。長い脚・・・細く張りのある太もも。ふくらはぎもほっそりとしているが、決して痩せぎすではない。
こげ茶色の髪と緑色の瞳。時に、彼女の髪は、光線の具合で、薄い色に混じって、赤くきらりと輝くのをスティーブは知っていた。バーバラの父方はアイルランド系である。その赤毛の遺伝子が、家系を通じて、たまに姿を現すことは当然といえば当然だ。その髪の色は、バーバラに良く似合っているとスティーブは思った。
鼻と頬骨に掛けて、かわいらしいそばかすが見られる。彼女の容姿は目を惹くものではあるが、ハッと息を飲むものではない。彼女の美しさは、どこか1つの部分によるものではなかった。全体としての美しさなのである・・・長い脚、美しい笑顔、きらきら輝く瞳・・・そのすべてをスティーブは愛した。いや、違う。スティーブは自分で訂正した。愛しているのではなく、愛したという過去形である。その愛情を、彼女は長い時間を掛けて、少しずつ殺してきたのだ。一体、今、どれだけ殺されずに残っているのか、彼には分からなかった。