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64_Don't overthink it 「考えすぎるな」
「一体なに? 何するの?」 リックがシャワールームに入ってくるのを見てサムが大声を出した。「出て行ってよ!」
「俺はシャワーを浴びるだけだよ。何が悪いんだ?」 とリックは平然と答えた。
「悪いって? 何が悪いって?」サムは吐き捨てるように言った。「あんた、あたしと一緒にここにいるのよ。あんたは素っ裸。それにあたしも……裸なの。何と言うか……これって……」
「ちょっといいか? これってそんなに変なことじゃねえだろ?」とリックは答えた。
「遅すぎだわ」
「おい、おい。俺、初めて見るってわけじゃないんだぜ? もう、昨日の夜、ふたりっきりの時に、俺にしっかりじっくり見せたじゃないか?」 とリックは答えた。
「ちょっと待ってよ」とサムは両手を前に突き出して、彼の言葉をさえぎった。「昨日の夜のことは、起きてはいけない出来事だったの。いい?」
その出来事は、ふたりがシェアしている寮にリックが一日早く帰ってこなければ、起きるはずがない出来事だった。サムがランジェリを身にまとい、化粧をし、女性ホルモンにより変化した体をすっかり露わにしているところをリックが見つけなければ、起きようがない出来事だった。サムが諦めて、自分がトランスジェンダーであることを告白し、女性化した肉体をだぶだぶのバギー服の下に隠し続けてきたことを告白しなければ、起きるはずがない出来事だった。リックが非常に理解があり、サムに一緒にビールを飲もうと言いださなければ、起きるはずがなかったのは確かだった。
サムが言った。「ふたりとも酔っぱらっていたの。あたしはあんなつもりじゃ……」
「俺は酔っていなかったぜ」とリックがさえぎった。「それに、俺はアレで終わりにしたいとも思っていない。君の気持ち次第だけどな。だけど、昨日の夜のことから判断すると、君も俺のことを好きなんじゃないかな? だったら何が問題なんだよ?」
「ああもう、全部リストアップしなくちゃいけないの?」とサムは答えた。「第一に、あたしは本物の女の子じゃないの。いい? それ、ちゃんと分かってるわよね? それにみんなにもバレるわ。あなた、みんなに知られたくないでしょ?」
リックは、唇で、続きを言おうとするサムを黙らせた。長々と熱のこもったキスだった。それによって、一時的に、サムが思う多くの恐れをすべて黙らせた。ふたりがようやくキスを解いたときには、サムの手は無意識的にリックの長く太いペニスを優しく包んでいた。
「俺は気にしないよ。君は女の子で、俺は男だ。そして、俺たちは互いに好きだと思っている。考えすぎるなよ」