
64_Hatching a scheme 「悪だくみ」
「わっ、彼、可愛いじゃない。ほとんど彼って気が付かなかったわ。いったい、どうやって彼にあの服装を着せたの?」
「賭けよ。というか、一連の賭けと言った方がいいかしら。彼、負け続けて、そのたびに賭けのネタが高くなっていったの。何回かわざと勝たせてあげて、彼にチャンスがあるかもと思わせてあげたわ。でも、賭けネタがあたしが欲しいところまで上がったところで、ドッカーン! とね。彼にハンマーを打ち下ろしたってわけ」
「それで彼にあの格好をさせたわけ? あれ、何? ドロシー?」
「知らないわよ。あたしは、ただ彼をコスチュームのお店に連れて行って、一番女の子っぽいのを選んでと言っただけ。それを着てトリック・オア・トリートをしに出掛けると聞いて、彼、すごく怒りそうだった」
「ちょっと待って。あなた、彼にあの格好で外に行かせたの? それって、すごいイジワル」
「あら、たった2時間くらいよ。それも街中じゃなかったし。誰も彼のこと分からなかったし」
「誰にもバレなかった理由が分かるわ。彼みたいな人がこんなふうになるなんて、あたしも予想していなかったもの」
「こんなふう、って、セクシーだってこと? そうでしょ? 正直言って、あたしも、彼にとってはまったく別の理由で恥ずかしいことになるだろうなって思っていたの。でも今は、彼はこの格好がちょっと女の子っぽすぎる点だけで恥ずかしいと思ってるんじゃないかって思ってるの。それに彼の態度がどんだけ変わったか、あなたも見るべきだったと思ってるの」
「どんなふうに変わったの?」
「そうねえ。彼のこと分かってるわよね? チョー傲慢な性格。うぬぼれ。根っからの仕切たがり屋」
「ええ。高校の時よりは良くなってきてたけど、彼って、いまだ昔のリックそのままだわ」
「でもね、あの衣装を着ているときは違うの。彼、本当にすごく受動的な性格になるの。しかも、恥ずかしがり屋にもなるし。誓ってもいいけど、声まで甲高くなったわよ。それに、もっと言っちゃうと、あたし、それが気に入ったのよね。とても気に入ったので、こうやって写真に撮ることに決めたわけ。さらに、このバージョンのリッキーを見るのは、ハロウィーンの時だけにはしないことに決めたの」
「待って。何? あなた、彼にもう一度、これをさせようと思ってるわけ? でも、どうやって?」
「彼、この写真を友達に見てほしいと思う? あたしのためにこの格好でダンスしてくれたけど、その時のビデオとかも? もちろん、そんなわけないわよね。だから、これを秘密にしておくためなら、彼、どんなことでもすると思うの。要するに、あたし彼に罠をかけたわけ。でも、彼はまだそれを知らない」
「ケイティ、それって……すごく邪悪だわね。でも、あたしも気に入ったわ。威張り腐ってるポールにも同じことができたらって思ったわよ」
「あなたならできるわよ」
「どうやって?」
「あたしに任せて。何か考えるから。約束するわ。来年のこの時期、あたしたちには可愛いシシーがふたりいるはずよ」