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64_The right choice 「正しい選択」
あたしは顔にかかった髪の毛を払いのけた。「どうしてそんなに驚いているの? これが、あなたが望んでいたことじゃない?」
彼は、裸のあたしの体から目を離せずにいたし、あたしも、動きたい衝動と戦っていた。何より、この裸体を隠したかった。どこかに隠れたかった。でも、そんな気持ちを制して、じっと動かずにいた。彼には、あたしの体を見る必要がある。彼自身がしたことをちゃんと見る必要がある。
「わ、分からない……いったい何が起きたんだ?」 と彼は言葉を詰まらせた。
あたしは微笑んだ。「あなたの研究を見つけたの。あなたが企んだとおりに」
「ぼ、僕は……」
「ウソはなしよ、ヘンリー」 あたしは彼の言葉をさえぎった。「あなたの論文を読んだわ。まさにこれが、あなたが計画していたことでしょ? ホルモン・サプリメントの効果を完璧にするために何夜も眠れぬ夜が続く? 回復するまで、あたしに隠れる場所を提供する? あたしたちの友情? そんなの本当のことじゃなかった。そうじゃない? あなたは、単に、実験室のモルモットを用意していただけ。まあ、実験の続きはあなたの手から奪って、あたし自身が行ったけれどね。あたし自身で先に進め、自分でサプリを摂取し続けたわけだけどね」
「でも、たった3週間だけだったんだ。そもそも、実験の設計では、そんなつもりはなくて……」
「ええ、1年はかかるという想定。でも、あなたはそんなに時間をかけるつもりはなかったんじゃない? だから、あたしが改良しなきゃいけなかったの。生化学で学位を持ってるのはあなただけじゃないのよ、ヘンリー。あたしが改良したわけ」
「で、でも、どうして?」 ヘンリーは明らかに混乱していた。
あたしは体を起こした。「あたしもこうなりたかったから」 あたしは告白し始めた。「ほんと、あなたって、時々、とんでもないバカになるわね。これ……この体……これはあたしにとってまさに夢だったの。あなたにはそれに気づくのは不可能だったでしょうね。あたしはその部分を完璧に密封し続けたから。でも、その気持ちはずっと持ち続けていたの。その夢を現実化するチャンスがくるとは思ってもいなかったわ。あなたの論文を読むまではね。あなたは、あたしが求めていたものすべてを、あたしに授けてくれたのよ」
あたしは立ち上がり、彼の研究の成果を見せつけた。あたしの体は素晴らしいと思うし、あたし自身、それを自覚している。あのサプリは完璧と言える効果を発揮していた。「そして、今から、あなたが求めていたものをあなたにあげようと思ってるの」 そういって、歩み寄った。彼との間が10センチ足らずになったところで、言葉を続けた。「あなたが求めていることじゃないのなら、話は別だけど。理解できるから……」
彼はあたしの首根っこを押さえ、あたしをぐいっと引き寄せた。ふたりの唇が重なり合った。そして、その瞬間、あたしは自分が正しい選択をしたと分かった。