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The spray 「スプレー」 

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64_The spray 「スプレー」

サムは、どうしてこんなことになったのか分からなかった。いま、親友のマークとチェイスの間に立ちながら、それが一番恐ろしいと思っている。なぜこうなったのか、それに、あの朝、目が覚めたら突然、自分が男だと思っていたのにそうでなくなっていたことに気づいたこと。それが恐ろしい。実際、今も彼は自分を男だと思おうと必死にもがいている。

時系列的には頭の中ではクリアに覚えている。ホルモン摂取、いくつかの小さな手術、そして女装。全部、覚えている。それに、そういうことが自分の感覚にどういう変化をもたらしたかも覚えている。ワクワクしたし、興奮したし、嬉しかった。どの行動も、他人から強制されたことはなかった。むしろ、自分でこの道を進んできた。それはマークもチェイスも同じだった。そして、その点にこそ、サムは恐怖を感じていた。つい1年前までは、彼は自分のことを普通のヘテロセクシュアルな男だとばかり思っていたのだから。

ヘザーが声をかけた。「ねえ、あんたたち、もうちょっと近寄って。3人一緒になってるところを撮りたいの」

サムは顔を上げ、ガールフレンドのヘザーが友達のジャネットとタラの間に立っているのを見た。3人とも、自分たちの彼氏がもはや男とは言えなくなっているのに、全然平気でいる。これこそ、警告ととらえるべきだ。今の状態は彼女たちが仕組んだことだとサムは思った。この3人が、この事態の背後にいると。

でも、どうやって? 催眠術? マインドコントロール? 100以上も様々なシナリオが頭の中、駆け巡った。そのそれぞれがありえないように思える。

その時、サムはあることを思い出した。ぼんやりとしているが、確かに記憶していた。ヘザーが何か気体を彼の顔にスプレーした記憶。その後、自分の意思が消えたという記憶。彼女の言うがままになったという記憶。

サムは頭を左右に振った。何か蜘蛛の巣のようなものを払いのけるように。現実のこととは感じなかった。マインドコントロールのスプレーなのか? まるでSFの世界のようじゃないか? 現実のはずがないだろ? でも、他にちゃんとした説明が思いつかない。

タラの声が聞こえた。「彼、また、思い出してるみたいよ?」

「あれ、持ってきた?」 とヘザーがジャネットへ声をかけた。

「な、何を……」 とサムは何か言おうとしたが、素早く、さえぎられた。

「こっちの方がずっと速いのよ!」 ジャネットが小さなスプレーの缶を手に、近寄ってきた。サムは遠ざかろうとしたが、彼女の方が速かった。そして、気づいたときには、すでに顔にスプレーを当てられていた。何が入っているのか分からないが、白い霧が目の前に漂う。そして、その直後、サムは頭の中が空っぽになっていた。

「何を考えていたか知らないけど、全部、忘れることね」 白い霧の中ヘザーの声が聞こえた。「あなた、今の新しい自分が大好きでしょう? すごくセクシーよ。とっても女らしいし。あなた、完璧なあたしの可愛い娘ちゃんだわ。違う?」

「もちろんよ。あたし、可愛いでしょう?」 サムは嬉しそうに笑った。「ねえ、誰なの、あたしたちのこと変に思ってる人? で、ヘザー? あなた、あたしたちの写真を撮ろうとしていたところだったと思うんだけど?」


[2018/01/05] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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