
64_Trade in value 「価値の取引」
「彼、どうしてこんなふうになっているの?」
「このためにお金を払っていただいたのですよ、グラハム様。変化の次元か何かに問題がありましたら……」
「いいえ、これは良いの。もっと言えば、『良い』を超える良さだわ。あたしから盗み続けていたあのチビがこんなふうになるなんて信じられない気持ち。彼の父親が亡くなった後、あたしは誓ったのよ……」
「あなたの義理の息子さんの悪事については存じております」
「ええ。もちろん、そうでしょうね。いえね、あたしが尋ねているのは、彼の顔の表情のこと。この表情はどういうことなのかしら?」
「ああ、それですか。彼は依然として催眠効果の状態にいるのです。処置により、被検者はちょっと……頭が空っぽの状態になるのです」
「ということは、今の彼は痴呆状態にあると言うこと? それって、あたしが頼んだこととは……」
「いいえ。条件付けの大半は、彼をお届けする時までには消えているでしょう。後まで残るのは、ここで過ごした時間の無意識の効果だけです。服従の気持ち。女性的な立ち振る舞い。お化粧などの身だしなみ。その種のことです。彼は、私どもの施設を離れたら2週間ほどで霧から抜け出た状態になるでしょう」
「もし、そうならなかったら?」
「そのようなことはめったに起きません」
「でも、完全に起きないというわけではないんでしょう?」
「まあ、時々は。万が一、そのような発生しにくい事態になった場合には、あなた様がお支払いになった金額の倍額で、彼を買い戻し致します。ご満足していただけるよう、完全保証ですよ、グラハム様。それが私どものモットーであります」
「その保証は、これから1年は有効なの?」
「どのような意味でしょうか?」
「例えば、あたしが彼に飽きてしまった場合とか」
「飽きることはないでしょう。彼は完璧に……」
「ええ、それは分かっているけど。ちょっと先のことを考えていて。もし、2年位して、彼がそばにいることに飽きてしまった場合、どうなるのかなと思って。その時も、彼を買い戻してくれるの?」
「もちろん、買い戻し価格は変わります。それに、その場合は彼を調べる必要もあるでしょう。ですが、ええ、買い戻しますよ。市場には、彼のような人間への需要は常に存在しますから」
「それを知って安心したわ。それで、いつ頃、彼を連れ帰ることができるかしら?」