
56_Biding time 「待ち焦れる時」
「グラハムさん、こんにちは。どんなおもてなしがお望みかしら?」とヒロキは言った。彼が少しも恥ずかしがることなくその言葉を言ったことは、彼のトレーニングの成果の証しだ。
ヒロキのビジネス上のライバルであったグラハムは、彼の女性化した体を舐めまわすように見た。「ヒロキ? 君なのか? ほとんど分からなかったよ」
「今はスイレンと呼ばれています。どんなおもてなしをして差し上げましょうか?」
グラハムは手を出し、ヒロキのぷっくり膨らんだ乳首を愛撫した。何とかして、この吐き気をもよおす男から逃れまいと堪える。それがヒロキにできるすべてであった。何とかして、その衝動を抑え込むことができた彼は、かわりに、男に触られるたびに、甘い喘ぎ声をあげて反応した。グラハムの指が、ヒロキの極度に女性化した体の曲線をなぞっていく。
「あたしのこの体、喜んでいただいてますか?」 グラハムのズボンの前、みるみるテントができてくるのを見ながらヒロキは訊いた。
「確かに、素晴らしい体だよ、スイレン。驚きだよ。本当に驚きだ」
ヒロキはグラハムの愛撫を耐え続けた。いくら耐え続けても、いずれは避けられない行為を先延ばししているに過ぎないとは知りつつも。自分はこの男を喜ばすことを求められている。なんだかんだ言っても、それが彼の生きる唯一の目的なのだから。
とりあえず、今はそうなのだとヒロキは思った。
ヒロキはヤクザの強力なメンバーともめ事を起こしてしまい、その代償を払ったのである。ヤクザたちは彼を殺さなかった。その代わりに、彼を女性化した性奴隷、つまり、現代のゲイシャに変えることに決めたのだった。ヤクザたちが実に巧みに女性化を行ったことに、元ビジネスマンであったヒロキは驚いた。だが、それ以来、彼はずっと、この新しい肉体と付き合わなければならないことになったのだった。
「ご奉仕させていただけますか?」とヒロキは訊いた。
グラハムはニヤニヤしながら答えた。「ああ、いいぞ。やってくれ」 そして彼はズボンのチャックを降ろし、ヒロキは彼の前にひざまずいた。
いつの日か、近いうちに、ヒロキはこの状態から逃れる機会を作るつもりだ。彼は今も外の世界と接触を持っている。そして、何とか監禁状態から逃れられたら、彼らに目の届かないところへと姿を消すつもりだ。だが、その日が来るまでは、今の役割を演じるほか道はない。
かすかに笑みを浮かべながら、ヒロキはグラハムを見上げた。いまは、この男をご主人様とあがめなければならない。「ご主人様にご奉仕することは、わたしの喜びですわ」 ヒロキは、そう言い、男のペニスを口に含むのだった。