
56_Desperation 「必死の努力」
教えられたとおりに脚を開く。指をあそこへと持っていき、いじり始める。肌の柔らかい部分を左右に広げる。
「これ、お好き?」 とふにゃふにゃの分身を軽く弾く。「おじさん、これ、しゃぶってみたい?」
男は舌なめずりした。この男はゲットできたなと分かる。彼は、あたしが払ってと言えばいくらでも払うだろう。やってと言えばどんなことでもするだろう。こういうパワーをあたしは使い慣れてきた。男たちを操る能力。これはあたしがしっかり習得してきたスキルだ。彼と瞳を見つめあう。ふたりとも今夜どういうことになるか分かっている。
彼にとっては、最もワイルドな妄想を現実にする激しい夜になる見込み。あたしにとっては、利益を得る見込み。代金はふたりとも充分了解済みだ。別れるとき、彼は、2千ドルほど財布が軽くなっているだろうし、あたしは少しだけ自尊心が損なわれているだろう。それがふたりの取引。それがあたしの日常。
でも、あたしは、いつまでもこんなふうなことが続くわけではないと思い、自分を慰める。いつの日か、新しい生活を追求するのに十分なだけのおカネを貯めて、自分に対して新しい物語を作り始めるのだ。事情により今は売春をせざるを得なくなっているけど、辛抱し続けていれば、やがて道が開けていく。あたしはそう確信している。
実際、あたしのような話は、そんなに珍しくはない。あたしは若く、身寄りがいなかった。そして、本当の自分だといつも思い続けてきた女性になりたいと必死に願っていた。だけど、その種類の変身は、安く手に入るわけではない。ホルモンやら手術やら、おカネがかかる変身なのだ。あたしにはそのような経済的負担に耐えるだけの資力はなかった。だから、唯一残されていた道に目を向けざるを得なかった。つまりは売春。
でも、とうとう、変身が完了した。借金を払うには、後もう2ヶ月ほどあればいい。その暁には、自由になれる。そして、とうとう、あたしにふさわしい人生を手にすることができるのだ。