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Gender equality 「ジェンダー平等法」 

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56_Gender equality 「ジェンダー平等」

「ああ、なんてこと。あの人にだけは……」 ディは訪問してきた女性を見てつぶやいた。

顔を隠そうとした。だが、外見が大きく変化しているにも関わらず、彼女はどういうわけか彼であることに気づいたのだった。彼女は、カウンターに座る彼のところにゆっくりとした足取りで近づきながら、顔に邪悪な笑みを浮かべた。

「デアンダーよね?」と彼女はもっとよく見えるようにと、小首をかしげて彼を覗き込んだ。「あなたでしょ?」

ディは彼女に返事する以外、他に道はないと悟り、作り笑いを浮かべた。「やあ、シモーヌ。調子はどう?」

彼女はそれには返事せず、ただ高笑いをした。「あらまあ、これって完璧じゃないの。完全な完璧。デアンダー・ゲインズが、なんとストリッパーに! あたし嬉しくって、いま死んでもいいくらいよ」

気力などほとんどなかったけれど、それでも気力を振り絞ってディは答えた。「ボクの人生を見て楽しんでもらえて、嬉しいよ」

「あら、もうイヤだわ。ちゃんと皮肉を読み取らなきゃダメじゃない。あんたはちんけなストリッパーなの。いろんなことあったし、かつては、あなたはあんな人だったのに、それが今は、こんな……」

「分かってるよね? 最近は、ボクのような男にはあまり選択の余地がないんだ。ボクは、生きていくために、しなければならないことをしてるんだ」

もちろん、彼が言ったことは正しかった。4年前、ジェンダー平等法案が可決した。それ以前は、ディはフットボールのスター選手で大学リーグに進むのが確実だったし、望むらくは、NLFにも行ける存在だった。だが、その最初の法案は、「男性優位」とされていたほとんどのスポーツ界に男性の参加を禁止する法案であり、それが可決したのに伴い、彼が描いていた将来の進路は、文字通り、彼の人生からはく奪されたのだった。進路を失い、高校卒業後の展望もなかった彼は、苦境に陥った。

その一方で、さらにいくつもの平等法案が可決されていった。法案が可決されるたびに、家父長制の要素が削り落とされ、10件以上もの規制が制定された後、家父長制は完全に解体され、男性を2級市民とすることが強固に確立されたのだった。これらの法案が意図していた通り、男性が新しい地位を占めることにより文化の変革が求められた。そして、大半の男性が、(対応する女性たちによる執拗な要求に応じて)、以前よりはるかに従属的で、伝統的には女性の役割とされていた役割を担うようになったのである。そのような文化的変革は、男性たちが望むと望まざるとにかかわらず進行した。結局、女性からの理にかなった要求を男性が拒むことは法律に反するということになったのである。この場合の「理にかなった」という言葉の意味は、完全に当事者の主観にゆだねられていた。

スポーツ以外、特に有益なスキルを持たなかったデアンダーにとって、これが意味することは、彼は生きていくためには、最終的に、女性の友人たちの慈善に頼らなければならないということだった。次から次へと女友達の間を渡り歩いたが、相手を変えるたびに、より支配的な女性を相手にしなければならないようになっていった。彼女たちのしつこい求めに応じて、かつては逞しかった彼の肉体も、より曲線豊かな体へと変えられ、服装も、よりジェンダーにふさわしい新しい衣装を着るよう仕向けられた。ちょうど、その時期と同じ頃、彼は否応なく現実を突きつけられた。その現実とは、たいていの女性が彼をひとりの人間としては見ておらず、おもちゃ、性的な慰みモノ、あるいは、他人に見せびらかすためのトロフィとしてしか見ていないという現実だった。現実が過酷であることを悟ったのであった。だが、彼は、その現実をいったん受け入れた後は、むしろ、その現実を、独り立ちするためのチャンスと考えるようにもなった。

そういうわけで、かれは男性ストリップクラブで働くようになったのだった。そのようなクラブは、数多くあり、いずれもジェンダー平等法の施行後、雨後の筍のように出現した風俗店である。そのような店で働くことは屈辱的であるはずだったが(実際、そう感じるときもあったが)彼は、そこで働くことによる果実と、その果実がもたらす自由をありがたがるようになっていた。たいていは、彼は自分の今の姿に納得し、心穏やかに過ごしている……ただし、まれにしかないが、彼の過去を知っている人が現れる時を除いては。シモーヌは、そんな彼の過去を知る人のひとりである。彼女は高校時代の彼のガールフレンドだった。

「ごめんなさい」とシモーヌは言った。自分の反応がひどく不適切だったことに、突然、気づいたのだろう。「世の中を渡っていくのが大変なのは分かっているわ。でも、ちょっといい? あなたのシフトが終わったら、一緒に会えないかしら? あたし、この店を買い取ろうと考えているの。だから、お店のことについて教えてほしいのよ。それに、互いに高校の後、どんなだったか話し合えるでしょ?」

「そ、それは嬉しいです」とデアンダーは言った。


[2018/01/13] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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