
56_Gone too far 「やりすぎ」
「何てこと!」 とマーシャは叫んだ。玄関を入ったときから、何が起きてるか彼女には分かっていた。夫が絶頂を迎えて叫ぶお馴染みの声が、家じゅうに響き渡っていた。だが、それを知っていることと、それを目にすることは、非常に異なることである。実際に目にすれば、怒り、悲しみ、諦め、そして興奮の感情が同時に湧き上がってくるものなのである。
「ああ、いいっ……もっと突いて!」 突き入れられるたびにハンターは声を上げた。彼はベッドの上、両脚を大きく広げ横たわっていた。その後ろには隣に住むカートがいて、後ろから彼を突いている。ハンターが自分で胸を愛撫する中、彼の萎えたペニスは、突き立てられるたびに上下左右に振れていた。
このような光景をマーシャは数えきれないほど見てきた。しかも、相手の男性は多数にのぼる。彼女は夫の悪癖をよく知っていたし、実際、彼に女体化を勧めたのは彼女自身だった。彼にホルモン剤を買ってあげたし、手術の代金も出してあげた。多量の新しい女性服も買ってあげた。忌々しいことに、彼女は、町はずれのダイブ・バー(
参考)で知り合った男に、彼がアナルのバージンを奪われる現場にもいたし、それ以来、ふたりで数多くの男たちを共有してきたのだった。でも、彼女にとって、自分も一緒にプレイしている時と今とは大きく違っている。自分がかかわっていない時に夫が他の男とヤッテいるのを見る……これは、彼女が不貞かどうかを分ける一線を越えた行為だった。
正直になれと言われれば、彼女も、これはハンターにとっては当然の進化だと認めたことだろう。彼が男であることをやめてから、ずいぶん経つし、今や、女性を惹きつけるような部分は完全に消滅している。いつの日か、彼が自分で男と会う機会を作っても、驚くべきべきことではなかったはずだった。とはいえ、愛というものは非合理的なものであり、マーシャも同じく非合理的であった。
「何よ、このエロおかま!」 言葉を可能な限り毒を含んだ言い方で包んで言った。グサリと突き刺さる言葉にしたかった。「もう、本当に……こんな…。ハンター、あんた…最低!」
だが彼女はしどろもどろになっていた。悪態をつくかわり、彼女はクローゼットに行き、スーツケースを出し、中に衣類を投げ込み始めた。その間ずっと、ハンターは妻をなだめる理屈を考えようとしていた(その間もカートは激しく彼のアヌスに抜きさしを繰り返していた)。考えようとしていたとは言え、身が入った思考とはとても言えないものだったが。
「残りの荷物、誰かに取りに来させるわ」 マーシャはそう言って、大きな音を立ててドアを閉めた。