
56_Orientation 「オリエンテーション」
「ちょっと、キミ? キミが新しく来た人ね。たくさん質問したいことがあるだろうとは思うけど……」
「ここはどこ? い、いったい何が起きてるんだ? それに…まさか! あんた、男なのか?」
「かつてはね。いいから聞きなさい。これからすごく嫌なことが起きるわ。だから、前もって言っておくけど、あなた、いつの日かここから逃げ出そうとするでしょうね。いつそういう気持ちになるか分からないけど、でも、ご主人様は不親切なお方ではないの。もっと言えば……」
「ご主人様? ご主人様って誰? それに、僕が逃げ出すってどういうこと? これって……」
「最後に覚えてることってどんなことだった?」
「え、えーっと、確か……バックパッカーになってヨーロッパを旅してて、あるバーに立ち寄った。その後はちょっとぼんやりしてるなあ……」
「キミはねぇ、薬を盛られて、誘拐されて、ここに連れてこられたの」
「でも、ここはどこなんだ? それに誰が……」
「ちょっと黙って話しを聞いてもらいたいわねえ。キミへの処置が始まるまで、あまり時間がないのよ。それに、これから起きることについて何か予感してるかもしれないけど、それはそんなに怖いことでもないのよ。だから話しを聞いて。オーケー? 手短に話すわね。キミは性奴隷にするため誘拐されたの。ご主人様は収集家なの……変人の性奴隷たちのね。しかも、その奴隷たちは生まれつき他の人と変わってる人ばかりじゃないの。あたしのようにね。あたしもご主人様に体を変えられたひとり。キミの体つきからして、たぶん、ご主人様はキミにも同じことをするかもね。何か他のことをするかもしれないけど。どうなるか分からないわ。男性ホルモンをたっぷり注入させられた女たちを見たことがあるわ。バギナを作られた男たちも見た。ひとり可哀想な男がいて、その人、女体化された後、ご主人様の犬になるよう躾けられたみたい。重要なことは、これに関してキミには選択権がないということ。ご主人様は、望んだモノを必ず手に入れる人なの。キミについても、体を変えたいと思ってらっしゃるわ」
「何てことだ……」
「でも、重要な注意事項があるわ。抵抗するなということ。あらがったりしたら、ご主人様はあなたをめちゃくちゃにして他の人に売り飛ばすでしょうね。その人たち、ご主人様ほどはキミを人間的には扱わないことだけは保証できるわ。分かった?」
「あ、ああ……」
「よろしい。もうひとつ知っておかなくちゃいけないことは……特に、正気のままここにいたいと思うならだけど……これは期限付きだということ。3年以上ここにいた人は誰もいないわ。ご主人様は、誰についても最後には解放なさるの。だから、キミもいつか自由を取り戻したいと思うなら、ご主人様を喜ばすためにどんなことでもすること」
「ど、どうして……なんでその人はこんなことをしてるんだ? 何が望みなんだ?」
「ご主人様は世界で最も権力のあるお方のひとりなの。できる力があるからなさってるんじゃないかしら。さあ、後2分くらいしたら、あの人たちが入ってくるわ。忘れちゃだめよ。抵抗しないこと。言われたことをすること。あたしも手伝える時には手伝ってあげるから……」