56_The commune 「コミューン」
「コミューンにようこそ。あたしはセス。あなたのガイドができてうれしいわ」
「あ、ハイ、セス。ボクは……」
「フェリックスよね? 知ってるわ。あなたとあなたの奥様のような新人は、そんなにいつも来るわけじゃないの。ここにいるみんな、あなたたちと知り合いになると思うわ」
「うん」
「質問があるんじゃない? あたしも初めて来たとき、そうだったもの。飛行機でオリエンテーションのビデオを見せられたけど、それでも理解できないことがたくさんあったもの。あたしが来たのは、あなたたちにここでの新しい生活に馴染みやすくなるようにするためなの。つまり、何か質問があったら、あたしができる限り答えるから安心して。何か必要なものがあったら、頑張って手に入れてあげるわ。あたしは、あなたたちのお助けのために来てるわけ」
「ということは……あなたも、ここでのことを経験してきたと?」
「もちろん、そうよ。不安になっているのは分かるわ。このコミューンは外部者にとっては恐ろしいところに見えるかもしれないもの。でも、このコミューンこそが、千年以上も前からの問題に対する最善の解決策だと理解すべきね。ちょっと訊いてもいい? ここに来たのはあなたの考え? それとも奥様の?」
「ふたりで決めたことです」
「じゃあ、奥様の考えということね。珍しいことじゃないわ。あたしたち男は、理想的な男らしさという時代遅れの考えにしがみつくよう、条件づけされているものだもの。強くて支配的に振る舞うように考えられている。ずっと前からそういうふうになっていた。でも、このコミューンでは、それに対して、こういうふうに単純な質問を問いかけるの。つまり、それで社会はどうなったのか、ってね。ここの外では犯罪率が史上最大にまでなっている。戦争はいたるところで起きている。貧困、不平等、抑圧もいっぱい。それが、世界の大半での現実。そして、その原因として責めるべきは、たったひとつ。それは、男らしさだし、その拡張として、家父長制ね。それが原因。だから、ここの創立者たちは、それを拒否しようと決めたわけ。例外なしで完璧にね。それがこのコミューン。やりたい放題の男性社会という砂漠に現れた、命の源泉となるオアシス。それがこのコミューン」
「ええ。それはパンフを読んで知っているよ。だから、ボクはここに来ることに同意したんだ」
「じゃあ、どうして? なんだか気乗りがしてなさそうなんだけど? みんな同じなの。だから、あえて訊くけど、あなたはどうしてここに来たの?」
「正直に言っていい? それはここが事実上ユートピアだからじゃないか? 生活の質も、ヘルスケアも、それに……」
「それだけでも、重要な点を示してるわね。でも、完璧さというものは、犠牲なしでは手に入らないものなの。それは、ここに来る前に知ってるわよね。あたしには、あなたがその犠牲に対応できるよう手伝う役目もあるの。まず、このコミューンでは男性は衣類を着ることが許されていないの。だから、施設に入る前に、すべての衣類を捨てなくてはいけないわよ。それから、もちろん、あなたの体も再構築する必要があるわ」
「さ、再構築?」
「変身のこと。それを格好よく言い換えた言葉よ。遺伝子治療とホルモン置換治療を組み合わせて一連の処置を受けるの。そうするとあなたの体はもっと女性的な、もっと嬉しい形に変わることになるわ。あなたは一定の体形になることが求められるでしょう。さもなければ、あなたも奥様もここから出て行ってもらうことになるでしょうね。その処置が終わったら、あなたの男らしさを示すものは脚の間にあるモノだけになるわ。あなたの立ち位置を常に意識できるように、ソコだけは残されるの。さあ、あたしについて来て。早速、処置に入るから。その後のユートピアの人生があなたを待っているわ!