56_A different path 「別の道」
「どういうこと?」 モーリーは、かつて自分の彼氏と思っていた人物から目を離すことができなかった。花柄のプリントドレス、長い髪、そしてハイヒールの姿で、彼とは思えなかった。だけど、最も謎だったのは彼の服装ではない。モーリーが本当に気になったところは、彼のドレスのネックラインから覗くはっきりと乳房と分かる胸の隆起だった。
ジャック、いや今はジャッキーだが、彼は体の位置を変え、モーリーにドレスの中を垣間見せた。彼は下着を履いておらず、彼の男性の器官が一瞬、見えた。それを見て、モーリーはどういうわけかある種、安心した気持ちになった。彼は身体を完全に変えたわけではないと知ったからかもしれない。
「理解できないことって何? まさか、何でも同じままでいるなんて思ってたりしてないでしょうね? モーリー、あんたはあたしを捨てたの。あたしは先に進んだだけ」
「で、でも……今のあなたは……」
「オンナ?」ジャッキーは肩をすくめた。「そういうふうに呼びたいなら、だけどね。個人的にはラベルなんかいらないって思ってるけど。女? 男? シシー? 両方? どうでもいいわ。好きに呼べば?」
「でも、何が起きたの?! 最後にあったときは、あなたは……」
「ええ、分かってるわよ」とジャッキーはモーリーの言葉をさえぎった。「それに、あんたが、何が起きたか知りたがってるのも分かってる。理解してるわ。でもねえ、あんたは全部教えてもらえる立場にないんじゃない? あんたはあたしを捨ててった。忘れないでよね。あんたは別の人生を生きることに決めた。だから、あたしも同じことをしなくちゃいけなくなったわけじゃないのよ。あんたに教えられるのは、そこまでね」
「いいえ! 違うわ! それじゃあ充分じゃない。教えてもらう権利があるわ。説明のような話でも。どんなことでも。ジャック!」
「今はジャッキーよ。……オーケー、何が起きたか知りたいのよね? いいわ。あたしは、あるカップルと出会ったの。その人たちがあたしが本当は何を望んでいるのかを悟る手助けをしてくれたわけ。あたしが望んでいたのは、誰かしっかり手綱を握ってあたしを導いてくれる人だったのよ。その人がいろんな決断をしてくれる。その人があたしに何を着るべきか、何を食べて、どういうふうに振る舞うかを教えてくれる。あたしは自分自身でどうするかを考えたり悩んだりする必要がない。あたしの代わりに、その人が考えてくれる」
「そ、それで、その人たち、あなたにこんなことをしたの?」
ジャッキーは高笑いした。「あの人たちに任せると、あたしが決断したのよ。……ええ、最初はちょっと疑っていたわ。でもね、今はすごくちゃんとしてる気持ちよ。こんなに幸せを感じることって生まれて初めて」
「でも、それって、あなたは奴隷だと言ってるのと同じじゃないの! そんなの……」とモーリーは声を荒げた。
「奴隷。召使。どうでもいいわ。あの人たちがあたしの面倒を見てくれてるわけだし。あたしも、そのお礼に、あの人たちの面倒を見てあげている。あたしたち、そういうふうにして生活しているのよ。あたしは、そういう生活をしたいの。だから、ええ、あんたがあたしに会いたがった理由は分からないけど、でも、何を考えていようと、それは実現しないわよ」
「でも……」
「じゃあね、モーリー。あんたに会って楽しかったわ」