65_An expert opinion 「専門家の見解」
「身体的には、あなたは完全に健康ですな」とマシューズ医師は言った。「コレステロールも血圧も……」
「先生?」とアレンは口をはさんだ。「あたしを見てください! これで完全に健康に見えるんですか?」
「どういう意味でおっしゃってるのか。女性に変わろうとしている人として、あなたは驚くほど健康ですが……」
「あたしは女性に変わろうとなんかしてません! ホルモンも摂ってないし。そもそも……」
「あなたは、ご自分がトランスジェンダーではないと言ってるのですか?」
「ありがとう! まさにその通りのことを言ってるんですよ。自分に何が起きたか、さっぱり分からないんですよ。この姿、自分の望む姿とはあまりにかけ離れている」
「失礼ですが、少し話が飛躍しすぎてるような気がします。医学的に言って、あり得ることかもしれません。ホルモンのアンバランスとかが原因かと。でも、ご自身を見てくださいよ。明らかに胸にインプラントしている。これは病理学的な原因によるものではありえません。それにお化粧。そしてネイルも塗ってらっしゃるし髪の毛も伸ばしてる。あなたは、明らかにご自身を女性と見せるように努力なさってます」
「そ、それは、他にしようがないからなんです! 妻のせいなんです。これをやったのは妻なんです。そうだとあたしには分かる。手術は胸の隆起を減らすためだったのに、かえって大きくされてしまった。本当に、まるであたしが……なんというか……もう、何が本当かすら分からなくなってるんです」
「ああ、なるほど…… それは珍しいことではありません」
「女性が自分の夫を女性化することが? そんなのって、あまり……」
「珍しくないのは、トランスジェンダーの人が後悔することです。大きな変化ですし、とてもビックリすることもあるでしょう。でも、これはいずれ消えていくものなのですよ。私が保証します。後になって、今の状態は道に転がっていた小石のようなものだったと思うことになりますよ」
「で、でも……あたしは……あたしは、ただ……普通の状態に戻りたいだけなのに」
「普通になりますよ。知らないうちに、いずれ、男性だったことをすっかり忘れるようになります」