65_Breaking the news 「青天の霹靂」
「ちっ!」と思わず口をついて出た。急に透明人間になれたらいいのにと願った。いまボクはガールフレンドの父親の目を見つめている。彼は急にドアを開けたのだ。そして、ボクも驚いていたが、彼も同じくらい驚いた顔をしていた。
「マーク? マークなのか?」 と彼はつぶやいた。
こんな格好でいたのだ。大事なところをすべて露わにした格好だった。いきなりだったので、隠す余裕がなかった。「え、ええ……」とボクもつぶやいた。
「でも、君は……君は……いったい何が起きてるんだ?」
ボクはうなだれた。「どう説明していいか分かりません」 そうは言ったけれど、過小な言葉なのは明らかだった。どう言ったら、彼のような人に理解してもらえるだろう? 最後に彼がボクに会ったときは、ボクは普通の男だった。それから1年も経っていないのに、いきなり、ほぼ完ぺきに近い女の子の姿で、全裸に近い形でいるボクを見たのだから、これを理解してくれというのが間違いだ。彼が唖然とした顔をしてるのも当然だった。
「ま、まずは、どうして私の家で裸でいるのかから話すのはどうだろう?」 彼はようやく多少、落ち着きを取り戻した後、提案してくれた。
「ぼ、ボクは……エミリを待っていたんです。彼女は、あなたが出張で家を空けていると言っていたので」
「そうか。だが、それは何なんだ? その、君に乳房があるという事実のことだが? それは、いったいどういうことだ、マーク? 君は……もしかすると……」
「込み入った話なんですが、いいですか?……ボクは別に……うまく話せない……ちょっと聞いてください。ボクもエミリも、こういう形であなたに知られるのは望んでいませんでした」
「知られるって、何を?」
「え、エミリは……彼女は……レズビアンなんです。エミリと知り合った時から、すでに彼女はそうでした」
「だが、君たちはずっと付き合ってきたじゃないか……」
「中学の時から。ええ、最初は、みんなを払いのけるためだけでした。もしエミリにボーイフレンドがいたら、誰も何も疑わないだろうって。それにエミリはボクの親友だったし。ボクはイヤだとは言えませんでした。でも、その時からボクは彼女のことが好きになってしまったんです。そうならなきゃよかったのにと、本当に願いました。でも、彼女のことが好きになってしまったんです、エバンズさん。本当に。そして、彼女にもボクのことを好きになってもらうためには、この方法しかなかったんです」
「そ、それじゃあ、君は……君はエミリのためにこうなったと? 私の娘のために?」
ボクは頷いた。「初めて彼女と付き合ったのは、ハロウィーンの時でした。ボクがトゥームレイダー(
参考)のコスプレをしたのを覚えていますよね? ええ、ボクはあの役をボクが思ったより上手くやったと思います。それというのも、あの姿になったボクにエミリは夢中になって、いつもベタベタとボクの体に触っていたから」
「キミが話しているのは私の娘のことなのだよね?」
「ええ、そうです。ごめんなさい。でも、あのコスプレで、ボクたちはアイデアを得て、それからずっと、ボクたちはいつも一緒にいるようになり始めたんです。でもいつもボクは女の子の服を着て彼女といました。そして、ふたりとも高校を卒業して、このキャンパスに引っ越してきた時から……ボクは次のレベルへと進んだのです。その結果が今のボクなんです」
「ど、どうしてエミリは私に話さなかったのだろう。私は気にしたりしなかったのに。どうして……娘が男の子を好きになろうが、女の子を好きになろうが……あるいは、その中間の人を好きになろうが、私は気にしなかったのに」
「なら、そのことをエミリにお話ししてあげてください」 ボクはそう言って、床に落ちている下着を拾い上げた。「でも、あの、その前に、ボクは行かなくちゃ。ええ、ここにいてはいけないと思うので」