65_Creeping doubts 「忍び寄る疑念」
「もっとハメを外しなさいよ」とヒースが抱き着いてきて、マイクの胸に手を当てた。「今夜は、あんたのバチェラー・パーティじゃない。ワイルドに大騒ぎすべきよ」
マイクは笑顔になって、興奮したような甲高い声を出した。でも、それは本心ではない。周囲を見回し、友人たちを見る。全員とは言わないまでも、ほとんどが素裸だった。そんな中にいても、何かとんでもなく間違っているという感覚に突然襲われるのだった。
ケビンが顔を寄せてきて、マイクの乳首をぺろりと舐めた。その瞬間、マイクは、長年の親友であり、大学時代、男子寮の仲間だった彼を押しのけたい気持ちに駆られた。その衝動はなんとか抑えたけれど、それでも、何か間違っているという感覚だけは、消えなかった。
ストリッパーがひとり、音楽に合わせて腰をくねらせながら近寄ってきた。波打つ腹筋と、わずかな布切れにすぎないGストリングをはち切れんばかりにさせている股間の盛り上がりが目立つ逞しい肉体の男だった。マイクは興奮してくるのを否定できなかったが、どうして自分が興奮しているのか、よく分からなかった。彼のような人間が、特に逞しい体のストリッパーを見て楽しむことは、完全に普通のこととなっている。それに、マイクは将来の妻のことを愛してはいるが、彼のような男性が、妻では満たせない欲求を持つことがあるということは、社会的に充分に理解されている。実際、彼女はマイクに羽目をはずす許可すら与えていた。
では、なぜ、マイクはこんなに居心地が悪い気持ちになっているのだろう? なぜ彼は彼を取り巻く全世界が正反対になっているかのように感じているのだろう? そして、なかんずく、なぜ彼は、ストリッパーの前にひざまずき、彼のGストリングを引きちぎるようにして脱がしている自分を、こんなに恥じているのだろう?
マイクがそのストリッパーの亀頭を愛しそうに唇で包むと、彼の友人たちが一斉に喝采を上げた。この行為は、これまで数えきれないほど何度もしてきた行為だった。
だが、その時、高速貨物列車のように、彼の頭の中にある観念が突進してきた。これはまったく間違っている。自分は、こんなところでペニスを咥えていてはならない。友人たちも乳房があるのは間違っている。自分自身も含めて。
彼は現実を悟るギリギリのところにいたのだろう。だが、その時、現実が主張しだしたのと同じくらい突然に、その現実は、新しい人生の圧力に屈して後退したのだった。ほんの数秒の間に、彼の思考は、疑念から恐怖へと変わり、そしてすぐに、この世界ではすべてが問題ないのだという絶対的な確信へと戻ったのだった。
それはほとんど魔法のようなものだった。