
65_Foolish 「愚行」
彼を尾行すべきじゃなかった。彼がマンションを出るのを見たときから、すでに、これは良い結果になり得ないと分かっていた。でも、とてもたくさん兆候があったから。彼はあたしに隠れて浮気していると思ったから。彼はマンションの駐車場から車を出し、あたしも車で後をつけた。何時間も運転してたように感じた。でも、明らかにそれは間違い。町から外にすら出ていない。彼がガソリンスタンドに入ったとき、あたしは、自分はパラノイアになったんだと自分を納得させようとした。数えきれないほどの彼の不貞の兆候。あれは、すべて、あたしの想像の産物なんだと。
彼は大きなバッグを持って、スタンドのトイレに入った。あたしは外にいて、ほぼ30分も彼は中で何をしてるんだろうと待っていた。まるで透視してトイレの中を見ようとしているみたいに、トイレのドアをじっと見つめていた。それは結果的に良かったと言える。それほど注意していなかったら、たぶん、見失っていたと思う。彼の姿を見失っていたと思う。
危うく認識できないところだった。彼のあの姿からすると、彼を男性とすら思わなかっただろう。完璧なお化粧、スカート、それにタイトな胸元の開いたトップ。小さいけれど、見間違えようのない乳房の盛り上がりが胸元から覗いている。彼のその姿は、どう見ても若い女性にしか見えなかった。そして、彼の姿を見た瞬間、あたしの中ですべてがカチッと音を立てて整合するのを感じた。その時、すべてが分かったのだった。
頭を左右に振った。あまりに理屈があいすぎる。彼と出会った時から、彼がちょっと人と違うのは知っていた。かすかな点だけど、確実に違う。それに、彼があたしとのセックスを拒んだ時も、どうだった? 確かに、彼は「結婚するまで待とう」みたいなことを言ったけど、あの時からすでに、彼は何か隠しごとをしてるとあたしは思っていたと思う。
さらに尾行を続けると、彼は郊外の住宅地域に入り、とある大きな白い家の前に車をつけた。彼が車から降り、玄関ドアをノックするのを見ながら、あたしの頭の中では、いくつものシナリオが駆け回っていた。中から大きな男性が笑顔で迎えに出てきて、あたしの女性化した彼氏を中に入れた。その様子が友人同士の単なる挨拶ではないのを知って、怒りがわいてきた。ふたりのボディ・ランゲージから、はるかにエロティックな関係があるのははっきりと見て取れる。
それから、ほぼ1時間、あたしは外で待っていた。でも、もう我慢できなくなり、車を出て、家の方へと忍び寄った。その時、間違いようのない声が聞こえてきたのだ。セックスの声。庭の方から聞こえてくる。あたしはその声のする方へと向かった。庭で何が起きてるか、決して見たくなんかないと思いつつも、なぜか行かなくてはならない気持ちになっていた。行かないという選択肢は、最初からなかった。
フェンス越しに庭の中を覗き、あたしは見た。ずっと恐れていたことの証拠を見た。彼は横寝になっていて、脚を大きく広げている。その後ろから大きな黒いペニスが彼のお尻に何度も何度も突いている。それに加えて、彼の体が驚くほど女性化しているのも見た。明らかに、彼はずっと前からホルモンを摂取していたのに違いない。
痛いほど目を背けたかったけれど、どうしても目を離せなかった。そして、その時、彼があたしに気づいたのだった。ふたりの目が合った。彼は謝るような表情を一切見せずに、あたしを見つめ続けていた。あたかも、邪魔するなら邪魔してみなさいよと言わんばかりの表情だった。あたしはふたりの邪魔はしなかった。向きを変え、その場を離れた。どうしてあたしはこんなにバカだったんだろうと思いながら。