スティーブはわざとバーバラから視線を背け、義父に向けた。眉毛を吊り上げて見せ、話しを始めるように促した。このちょっとした話し合いを進めるには、こうするのがベスト・・・手っ取り早く済ませてしまいたかった。つまらない雑用のように、さっさと片付け、後は忘れられる。
ロイドは気後れしつつも話し始めた。
「私は・・・スティーブ・・・バーバラから、ポーター氏と公園にいるところを君が見たことについては話を聞いている。私たちは、バーバラがあそこで彼としていたことを、君は誤解したのじゃないかと思っているんだよ」
スティーブはバーバラを見た。彼女は、カウチの背にもたれ掛からず、背筋を伸ばして座っていた。スティーブはバーバラに問いかけた。
「オーケー。君は、あそこでラファエル・ポーター氏と何をしていたのかな?・・・いや、もっと正確に言おう・・・君はご両親に、何をしていたと話したんだ?」
「起きたことを正確に話しました」
バーバラはきっぱりと答えた。かろうじて心の中の怒りを押しとどめているように見えた。
スティーブは、無言のまま、笑みを浮かべた。目は笑ってはいない。バーバラに話を続けるよう、身振りで促す。
バーバラは深呼吸した。
「誤解させてしまったのはごめんなさい、あなた。とっても単純なことなの。あんな過剰反応すべきじゃなかったのよ」
スティーブは、手を前に突き出すしぐさをして、バーバラに話を止めさせた。バーバラは困惑した顔で彼を見た。
「僕のことを呼びかけるとき、『あなた』と呼ぶのはやめて欲しい。『ダーリン』とか、その他、一切、やめて欲しい。オーケー? そのように呼ぶ権利を君は失っているし、僕自身、我慢がならない」
バーバラは唇を噛みしめた。怒りの表情が瞳に浮かんだ。明らかに自制しようと努めている姿を見せながら、バーバラは頷いた。
「仰るとおりにするわ・・・スティーブ・・・」 相手をなだめようとする声になっていた。 「話し合いを続けるためなら何でも・・・」
バーバラは座りなおし、膝の上で両手を組んだ。
「とにかく、あなたが見たのは、まったく他愛のないことだったの。レイフは彼の夫婦生活で問題を抱えていたの。そして私は、その辛い時期に彼の助けになってあげていたということ。2人でどこかに行って、話し合ったりしたわ。女性の立場からの意見を聞くことが、レイフにとっては助けになっているようだったから。それだけのことよ、あな・・スティーブ。レイフはただの良いお友達。それだけ。川のほとりで私たちを見て、カッと来た気持ちも理解できるわ、でも・・・でも、そういうことだったのよ」
バーバラは、陽気に上ずった調子で説明を終え、ためらいがちにスティーブに微笑みかけた。スティーブは何も言わず、しばらく彼女を見つめたままだった。バーバラの話は、彼にとっては、十分に練習を重ねたもののように聞こえた。