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Vanessa 「バネッサ」 

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65_Vanessa 「バネッサ」

ケネディは玄関ドアのカギ穴にカギを挿し込みながら、お腹のあたりがソワソワするのを感じていた。父とは1年半近く会っていない。彼女は父親とメールのやり取りはしていたけれども、生身で会いたいと思っていた。父親とはいつも目と目を合わせる付き合い方をしていたわけではない。特に彼女が高校3年の時に母親が亡くなってからは、そういう感じではなくなっていた。だけど、ふたりは仲の良い父娘として、親密になっていた。そして彼女は、20歳を過ぎ、家を巣立った。アマゾンのジャングルの奥地に旅立つことを決めたのだった。それは難しい決断だったけれど、彼女の研究ではそれが必要だったし、父を一人残すことは心苦しかったものの、そのチャンスを断ることはできなかった。

とは言え、雨が降りしきるジャングルの奥地で、ひとり夜を過ごしながら、彼女は自分が正しい決断をしたのだろうかと何度も悩んだ。父は母が亡くなった後、ひどく落ち込み、以前とはすっかり変わっていた。どうしても父のことが心配になって仕方がない。生身で父親の顔を見て様子を知りたい。そんな心配をしていたことを思い出しながら、彼女は子供時代を過ごした家の中へと入った。

「あたしはここにいるわ!」 家の奥から女性の声が聞こえた。だけど、なぜかどこか聞き覚えのある声だった。「準備ができるまで待ってて。そうねえ、あと2分くらい」

ケネディは何も言わず、声のしてくる方へと行くことにした。しかし、彼女の心の中は穏やかだったわけではない。いろいろな可能性が頭の中で渦巻いていた。父は結局デート・サービスの世界を頼るようになったのだろうか? とうとう、前に進むことにしたのだろうか? ほとんど足音を立てずに廊下を進みながら、彼女は「これは良いことなの。お父さんは誰かと知り合えたのだから」と自分に言い聞かせた。もちろん、裏切られた気持ちもないわけではなかった。そんな気持ちは非合理的とは知りつつも、気持ちの中に、父が母の代わりを見つけたことを嫌悪する部分もあった。その嫌悪感は抑えつけたものの、完全に無視できてるわけでもなかった。

ケネディは部屋の前にたどり着いた。父と母が共有していた寝室である。彼女は一度、深呼吸した後、ドアを開けた。

見知らぬブロンド髪の女性が背中を向けていた。ベッドの上にドレスを並べているところだった。素裸だった。素晴らしい体つきをしていることは、簡単に見て取れた。特に、割と年配の女性にしては、目を見張るようなプロポーション。

「もう少し待っててね」とその女性は振り返らずに言った。「すぐに来ちゃうわ。悪い印象を与えるのだけはイヤ」と独り言を言っていた。

ケネディは咳ばらいをした。「あの……あたし、もう、ここにいるけど……」

女性はびっくりして、向き直った。その結果、彼女の圧倒的にゴージャスな体がケネディに見せた。豊満な乳房、曲線美豊かな体。まるでポルノスターのような体をしていた。しかし、その体をしていても、ケネディにはその女性が誰であるかを認識するのを妨げることはほとんどなかった。

「お、おとうさん? え、ええ? ……ど、どうして……ああ、……何てこと……」 ケネディは言葉に詰まった。その目は、この女性の生物上の性別を示すモノに釘付けになっていた。

「ああ……こんなっ……」と女性的な声で彼女の父は声を出した。「こんな形で知らせるつもりはなかった」

「わ、分からないわ……おとうさんは……今は……」 ケネディはちゃんと喋ろうと必死だったが、過呼吸状態になっているのを感じていた。

「今は女性になっている」と彼女の父は言った。「前もって言っておくべきだったのは分かってる。でも、これって、メールで伝えられるようなことじゃないでしょ?」

「あたし、理解できない」 そうは言ったけれど、彼女にしてみれば、その言葉は控えめな言葉だった。父親は、これまで女性的なことに嗜好がある素振りを少しも示したことがない。これまでの人生を男らしい機械工として過ごしてきた父親だった。「本当に、理解できないわ」

「お前の気持ち、分かるわ。あたしは、お前が生まれる前から女装をしていたの。自分でも、つい最近までフェチにすぎないと思っていたのよ。最初から女性になりたいと思っていたわけじゃないの。少なくとも自分ではそう思っていたの」

「じゃあ、何が変わったの?」

「ミッシェル叔母さんよ。お前が家を出る2ヶ月ほど前、偶然、ミッシェルと出会ったの。お前に言っておくべきだったけど、お父さんはミッシェルと付き合い始めたのよ。そして、お前が家を出た後、ふたりの関係の方向がちょっと変わったの。お父さんは最初から女装のことについてミッシェルに言っていた。そして、そのことがどんどん積み重なって、今は……」

「今はこの姿になったということ? オンナに?」

「女性よ」と彼女の父親は訂正した。「でも、そう。単純化しすぎた見方だけど、核心としては、オンナになったということ。そして、今、お父さんは幸せなの。本当に。お前のお母さんが天国に行ってから、初めて、感じられたの。つまり……何と言っていいか分からないけど……つまり、初めて、未来に向けて希望があるというふうに感じられたの」

「そう……」とケネディは言った。「でも、あと、ひとつだけ、言っておきたいことがあるわ」

「何?」

「今はお父さんをどう呼んだらいいの? もう、おとうさんと呼ぶことはできないわ。そういう体になった以上、もう、それは……」

彼女の父親は笑顔になった。「今はバネッサ。あたしのこと、バネッサと呼んで」


[2018/03/09] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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