
66_Lucky 「幸運」
「何か変?」 シャワーから出ながらあたしは尋ねた。「どうして、そんなふうにあたしのことをじろじろ見ているの?」
ライアンは苦笑いした。「俺って運のいい男なんだなって思っていたんだ。何て言うか、ちょっと考えてみてほしいんだけど。俺と君が一緒になるために起きた出来事の数々。それを考えてみてほしいんだ。すごく完璧にそろっていないと、俺と君は一緒になれなかったんだよ。ひとつでもピースがずれていたら、俺たちは出会っていなかった。そういう、いろんなことが起きていなかったら、今の俺がどうなっていたか、想像できないんだ」
「ライアン、あたしたち小学校3年の時に出会ったわよね。でも、それって、そんな壮大なパズルじゃないわ。単に、あたしたちの親が同じ学区に住むことにしたってだけじゃないかと思うけど?」
ライアンは頭を振った。「違う。分かっていないよ。俺は、エリックと出会った時のことを言ってるんじゃないんだ。俺もエリックと出会って良かったと思ってるよ。でも、俺が言ってるのは、違うんだ。君と出会った時のことなんだ。本当の君と」
笑顔でいうライアンに、あたしも笑顔になってお返しした。「あの夜、バーでのことを覚えている? あなたは全然あたしだと分からなかった」
「そして、あの夜、君はずっと俺につきまとっていたね。俺に君が誰かについてのヒントを言い続けていたけど、俺は全然分からなかった」
「だって、あなたがどんな反応をするか怖かったから。何と言うか……あたしは普通の女の子と違うから」
「そうだね。俺には君は全然違う。君は、俺が知ってるどんな女の子たちよりもずっといいよ。君は完璧だ」
「本気で言ってるの?」 とあたしは訊いた。驚くべきことじゃなかったかもしれないけれど、あたしは数えきれないほどイヤな経験をしていた。「昔あたしが誰だったかを本当に気にしていないの?」
「いや、それは気にしているよ」 それを聞いてあたしは心臓がドキドキするのを感じた。「だって、今の君がいるのも昔の君があってこそなんだから、当然、気にするよ。今の君は強いし、勇気があるし、とても綺麗だ。俺が君を好きなのは、君が元はどんなだったからじゃないんだよ。今の君のすべて、これまでの君のすべてを含めて、君のことを愛しているんだよ。これまで君が辿ってきた旅路があるから、そして今の君が最終的な目的地にたどり着いているからこそ、君のことを愛しているんだよ。君のすべてを愛しているんだよ」
「あ、あたし、何て言っていいか分からない」 目から涙が溢れていた。「あたしも、あなたを、愛してる」
この3つの言葉は、彼が言ってくれた言葉に比べれば、空虚に響いている感じがした。でも、彼はあたしの言葉不足など、気にしていないようだった。
「さっきも言っただろ。俺は運のいい男だって」