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143日目。ちょっと頭が変になり始めてる。サインアップした時、どういうことになるかは分かっていた……少なくとも、分かっていたつもりだった。国のために役立ちたいと思っただけだった。このプログラムに参加すれば、それができると言われた。国に大きな貢献ができると。だけど、鏡を見るたび、自分の決断は正しかったのかと疑ってしまう。彼らが最初に私にアプローチしてきた時、これは何か手の込んだジョークじゃないかと思った。他にどう考えろと言うんだろう? 何と言うか、すごく狂った話に聞こえた。もうちょっと詳しく話すべきかな……
誰かを潜行捜査のために送り込むというのは別に新しい考えではない。もう何世紀もそんなことは行われている。そして、この国の政府も例外ではない。この国は、すでに、何百もの(多分、何千もの)犯罪組織やテロ組織に潜行させてきた。大半は、比較的容易だった。ある程度の演技能力のある人間を偽の経歴を持たせて送り込む。後はうまくやると。もう少し難しいケースもある。犯罪者かテロリストといった、誰か別の人間になりすますケースだ。難しいが、それなりに成果は大きい。
今の時代、私たちの国にとって最大の脅威はテロリズムだ。問題は、多くの場合、テロリストたちの信頼を得るのが非常に、非常に難しいという点だ。特にテロ集団のリーダーに取り入る場合が難しい。連中は簡単に多くの人を近づけたりはしない。近づけるのは、何度も信頼がおける人間だと行動で証明した、すでに知られた性質をもつ者だけだ。
そこで国の人たちはあるアイデアを思い付いた。女性を送り込むのはどうだろうかと。
確かに、一理ある。女性は男性よりもはるかに容易にテロリストたちに近づける。しかも、コラテラルダメージ(
参考)も少ない。確かに女性だと、気が進まないことをしなくてはならないだろう。だけど……まあ、それが仕事だと言える。人命が掛かっているのだ。適切な人間がいたら、しなくてはいけないことをするのは当り前だ。そういうわけで、このハーレム計画が生まれた。
アラブ世界では、美しい白人女性に対して、異常なほど大きな需要がある。(贈り物や、ぜいたくな暮らしや、法外な報酬の形で)対価をもらう女性もいれば、売り飛ばされる女性もいる。今の時代、認めたくはないが、世界ではいまだ奴隷制度が大きな役割を果たしている。そこで政府は、その需要に付け込むことにした。
まずは、政府は女性を集めることに特化した機関を立ち上げた。信用を作り上げ、紹介者をねつ造した。たった3年で、その機関は、王子からシークや裕福なビジネスマンに至るクライアントから接触を受けるまでになった。もちろん、その政府機関は実際にサービスを提供しなければならない。その機関は、世の中で勝ち組に入りたがっている若いアメリカ人の女の子たちを集めていた。6桁のサラリーのためなら、ほとんどどんなことでもしようと、そのチャンスに飛びついた若い女たちがいかに多くいたか、驚くに値する。
次に、その機関は、彼女たち若い女の子たちの中に特別訓練を受けたエージェントを混ぜて、最も多くの情報が得られそうな場所へと送り込んだ。そのエージェントたちのおかげで、現在までで、600人近くの危険なテロリストや国際犯罪者の逮捕に至っている。そのプログラムは、絶対的な先例のない大成功だった。
だが、それはそこで終わらなかった。そうでなければ、私がここにいる理由がない。
彼らが私に近づいてきたのは、私が陸軍の基礎訓練を開始して1週間に入ったときだった。彼らは私が賢いことを知っていた。だが、それ以上に、私は彼らが求めていた身体的特徴を持っていた。
世界で最も力があり、しかも、捕らえるのが難しいテロリストの中に、非常に特殊な嗜好を持っている者がいた。彼はハーレムに女性は求めていなかった。女性化した男を求めていたのだった。彼は、ありきたりな女装者や異性装者は求めていなかった。彼は、女性的な美しさを持っている者を求めていた……しかも女性化したがらない者を求めていた。
彼は、ハーレムに入れる者を本人の意思に反して女性化し、その心を打ち砕くのが好きだったのである。多分、その人物は、そういうことを通してアメリカの若者を破壊し、意に反してセックスを懇願させるという考えが気に入っていたのだろう。あるいは、少なくとも、そういうことだと機関の人は私に言っていた。
もちろん、その政府関係者は自分ではその仕事をする気はなかった。その仕事を専門的に行う者たちがいた。そしてまんまと術中にハマったのだった。そこに私が加わった。
私は元々体が小さかった。それに……ルックスも可愛いと言える。だからこそ、自分は軍隊に入ったのだと思う。軍に入れば、自分をもっと男らしくしてくれるだろうと思ったのだ。一種、皮肉だと言える。ともあれ、5ヶ月間、集中的にホルモンセラピーと訓練を受け、私は小柄で可愛い存在から、美しくてセクシーな存在に変わっていた。
明日、旅立つ予定になっている。だから、これが日誌の最後になるだろう。どのくらい向こうにいることになるか分からない。何年にもなるだろう。どうして、これをすることに同意したのだろうか? 国のために自分ができることをしたかったからだろう。その気持ちがあったからこそ、ここまでやってこれた。