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67 Crazy 「狂ってる」 

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67 Crazy 「狂ってる」

「これって変なことだと思う」とあたしは言った。声がかすかに震えていた。不安に思ってる気持ちがバレないようにと願った。その不安感をさらに偽装するため、軽く微笑んだ。

「僕もそう思うよ」と彼は答えた。彼の瞳の中、肉欲的な欲望が見えた。それに、精神的な愛情も。彼は近づいてきて「でも僕は気にしない」と言った。

怖くなって、目を背けた。彼が怖くなったのではない。自分が怖くなったのだ。自分がしようとしていること、ここまで自分を変えたこと、そして、その目的。それが怖くなった。

健康的ではないのは知っている。正直に言えば、「健康的」という概念から最もかけ離れたことだと思う。あたしは打ちひしがれていたし、それは彼も同じだった。ふたりとも、落ち込むなら、ふたり一緒に落ち込んでいたいと思っていた。それはそんなに悪いことなの? 幸せになるために、できる手立てが何であれ、それを一緒に行おうと思うのは、そんなに悪いことなの? 愛する人を失った喪失の痛みを慰めあいたいと思うのは悪いこと? あたしは、それは悪いことではないと、あたしたちは完全に間違っていないと、無理にでも思い込もうとした。でも、心の奥では、理性的に分別を働かせた。彼も同じだった。

「彼女に会いたいの」と呟いた。「ほんとに、ほんとに彼女に会いたい」

「僕もだよ」と彼が囁いた。彼はあたしの近くにいて、彼の温かい呼気が頬に伝わった。

「これは間違ってること?」 とあたしは顔を上げ、彼の瞳を見つめた。彼の目が潤んでいるのが見えた。あたし自身の目に涙が溢れてきているのと同じように。

「僕は気にしない」と彼は繰り返した。彼の気持ちは分かっている。もう、ふたりとも、気にしていない。彼は手を差し出し、あたしの顔を撫でた。「本当に君は彼女にそっくりだ」

「分かってる」とあたしは答えた。この点が重要なところだった。あたしはずっと前から姉に似ていた。実際、双子なのだから当然。でも、あたしは、姉が死んだ後、さらに姉に似るように努めた。悲しみに打ちひしがれ、頭がはっきりしてる時はまれだったけれど、そんな希な時に冷静に思えば、自分は狂ってると分かっていた。整形手術を受けたり、姉の服を着たり、名前を変えたり。狂ってると分かってても、やめることができなかった。自分は本当に姉にそっくりになりたいのか、自分でも分かっていなかったと思う。ただ、鏡を見るたび、死んだ姉があたしを見てるように思えた。そして、一瞬にせよ、姉が亡くなったことを忘れられた。一瞬にせよ、自分は独りではないと思えた。

そして彼は、変身したあたしを見て、ためらうことすらしなかった。彼は、死んだ恋人と、目の前に立つ、彼女のコピーの区別をしなかった。彼はあたしを……姉を……とてもとても情熱的に愛してくれた。姉の死は穴を残したけれど、あたしはその穴に完璧に嵌った。

自分が狂っているのは知っている。でも、あたしは彼と同じく、それを気にしない。今後も一切。


[2018/04/19] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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